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認魂レポート

第 14 回 テーマ:「認知症患者の運転の問題にどう対応するか?」

参加者:
【介護職】原島哲志1) 高橋芳雄1) 渡辺敦之1)
【介護支援専門員】石川雅子1) 泉田優香2)
【看護師】小野里晴美3)4) 坂井美和子1)
【作業療法士】石井登5) 川瀬敦士1)
【保健師】渡辺晃代6)
【高齢運転者支援係】B7)
【適性係】C7)
【医師】川瀬裕士1)

介護職…以下「介」     介護支援専門員…以下「CM」
看護師…以下「看」     作業療法士…以下「リハ」
保健師…以下「保」     高齢運転者支援係…以下「支援」
適性係…以下「適性」

1)川瀬神経内科クリニック(以下「川瀬」)
2)ケアプランセンター桜井の里(以下「居宅」)
3)訪問看護ステーションあすも(以下「訪看E」)
4)訪問看護ステーションD(以下「訪看F」)
5)弥彦村地域包括支援センター(以下「包括」)
6)三条市 福祉保健部 地域包括ケア推進課地域包括ケア総合推進センター(以下「行政」)
7)新潟県警察本部交通部運転免許センター(以下「警察」)

 


 

氏  名(所属・職種)

川瀬敦士(川瀬・リハ) 認知症ケアをみんなで考える会「認魂」第14回研修会を始めさせていただきます。今日はよろしくお願いいたします。私は川瀬神経内科クリニック事務長兼リハビリテーション科科長作業療法士の川瀬と申します。今日は司会の方をさせていただきます。初めにこの会の趣旨について、川瀬神経内科クリニック院長、川瀬裕士の方からお話をさせていただきます。

川瀬裕士(川瀬・医師) お願いします。川瀬裕士です。皆さんいつもありがとうございます。この認知症ケアをみんなで考える会 「認魂」というのは2015年に始めておりまして、2019 年の 11 月、コロナになる前まで13回やっておりました。徘徊、興奮、被害妄想など、いろんなテーマで認知症に関わる方々に集まっていただいて議論・ミーティングをさせてもらい、その中でこういうことをしたら少し良い介護ができるのではないかというようなことを話し合って、それを記録としてホームページにずっと出しておりました。コロナがあってしばらくやれていなかったのですが、また落ち着いてきたのでやろうかなと思い、ウェブを併用してという形になりました。今回のテーマが、ずっといつかやらねばと思っていた運転免許の話ですね。これに関して今日ゲストの方々に来ていただいていますので、専門的な情報や知識も教えていただきながら、運転できなくなると困るよね、でも危ないのもあるからどうしよう、という本人たちの気持ちとかも考えなきゃいけないし、ご家族の思いも考えなきゃいけないし、そういったちょっと広いテーマで、どこにゴールが行きつくのかわかりませんが、毎回皆さんの活発なご意見をいただきつつやっておりますので、よろしくお願いいたします。

川瀬敦士 ありがとうございます。それでは本日の流れです。初めに背景や本人、介護者の気持ち、意義についての導入説明をさせていただきます。その後自己紹介を皆さんに1人ずつしていただきたいと思います。そしてディスカッションに入っていきますが、今日は事例を何例か用意しております。そこに書籍の情報なども交えながらディスカッションをしていきたいと思っております。休憩を挟みまして、最後にまた感想など一人一言ずついただければなというふうに思っております。それでは早速ですが、「認知症患者の運転の問題にどう対応するか?」ということで、始めに県内の高齢者の交通事故発生状況です。(図1)

図1:高齢者の交通事故発生状況

「令和5年中 交通死亡事故の特徴・高齢者事故の概要」新潟県警察

令和5年は令和4年と比べて、発生件数が減少しています。発生件数と負傷者数においては、18年連続減少しているとのことでした。ただし、死者数で見てみますと半数以上を高齢者が占めているということです。また、これは高齢者の免許所有者数と認知症の方の人数を書き出したものです。(図2)

図 2:高齢者の免許保有者数と認知症の方の人数

65 歳以上人口      3624万人          内閣府:令和5年版高齢社会白書(全体版),2022
65 歳以上運転免許保有者 1927万人          警視庁:運転免許統計,2021
認知症患者        推計700万人(2025 年における) 厚生労働省:認知症の人の将来推計について
MCI           推計400万人(2012年)      社保審-介護給付費分科会第115回(H26.11.19)参考資料1

高齢者の2人に1人が免許を持っており、一方で認知症とその前段階の MCI の方を合わせると3人に1人いますので、認知症や MCI*1 の方で免許を持っている方が存在してる可能性があるというふうにも言われています。では、認知症による認知機能の低下が運転能力に及ぼす影響を予測するとどんなことが言われているかといいますと(図3)

図 3:認知症による認知機能の低下が運転能力に及ぼす影響を予測すると

上村直人,藤戸良子,樫林哲夫:認知症と自動車運転
-改正道路交通法と臨床現場での課題-.高次脳研究,第40巻,第3号,2020

例えば記憶障害でいうならば、行先や車をぶつけたり困ったりしたこと自体を忘れてしまう。なので自分の運転には問題ないのだとなるかもしれません。また見当識障害というのは、時間だけではなく、場所の見当識というのもありますので、曲がる場所がわからなくなり、迷走してしまう。そして、注意障害においては、信号の見落としや、人が出てくることに気づかないなど、いわゆる視覚情報の処理での影響があると予測されます。また遂行機能、つまり段取りなどの障害ですが、これはカーナビの操作ができないですとか、予定の経路を通れない時に、次にとるべき行動の判断ができないなどが予測されます。また、認知症も様々なタイプがあります。いわゆるアルツハイマー型認知症だけではなくて、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症などタイプがあるわけですが、レビー小体型認知症においては幻視、あるいは日中の覚醒レベルの変動など、そういったことが危険運転に繋がると予測されています。そして脱抑制などがみられる前頭側頭型認知症においては、我が道を行くということになりますので、自分の目的に気を取られて信号無視してしまう。失語症の方では、道路情報の案内が読めない。逆走など、これはもっと複合的な問題も入っていますけれども、そういった所に繋がるということも予測されるわけです。こういったことが予測されますので、認知症の診断がついた場合には、当然法律でも運転できないことになってるわけですし、認知機能の低下がわかったときには、運転を取りやめてもらいたい、中止してもらいたいというところが周りからはあるのですが、なかなかうまくいかない。そこには本人の気持ちがあると思います。本人の気持ちという部分では、 「孫の送り迎えをしているので必要なんだ」「夕方になると見えにくくなることもあるけれど気をつけている」「60 年間運転してきて事故を起こしたことは一度もないんだ」「ボケ防止で運転している」「運転能力は低下しているが、免許を返納するほどじゃない」「運転能力の低下を指摘されることは、自分の人間性も否定されているように感じる」運転すること自体、その人にとって意味があることです。そうした意味での自立への願いや、自身の能力に対する認識、返納への葛藤、変化への抵抗というものが背景にはあると。こういったアンケートもあります。全国の40 歳以上の一般ドライバー517 人へのアンケートですが、その中でも高齢者の目的としては、食品や日用品の買い物、通院などが多いそうです。そして運転の意味としては、7割が移動手段、3割に楽しみ、生きがい、自立が入ってくるそうですが、特に高齢者にこうした3割の部分の考えが多いということでした。一方で介護者、家族などの気持ちですが、 「事故で他人に迷惑をかけるのは絶対にさけたい」、「本人が自発的にやめるようになれば良い」、「無理やり免許を取り上げられない」、「行動を制限する事への罪悪感もある」やはり止める方法ですね。罪悪感もあって、説得がうまくいかないという状況があるかと思います。まず安全への懸念ですね。公共への安全の懸念、家族への安全の懸念、そして当事者との対話の重要性とその難しさを感じているんだとあります。というわけで、本日の研修会の意義ということですが、まずは認知症患者と公共の安全の確保の必要性と、また単に説得すれば良いのか、適切な対応はどんなことなのかを通して、認知症患者とその家族の生活の質を維持するという意味があると思います。では自己紹介をお願いしたいと思います。

*1  MCI(軽度認知障害):もの忘れ症状だけで日常生活は人の助けを借りなくても一人でできる状態
出典:日本認知症学会HP

B  氏(警察・支援) 運転免許センターで、高齢運転者支援係で勤務しておりますBと申します。高齢運転者支援係は、いわゆる高齢運転者の免許更新に係る手続き、それから、高齢運転者の方が違反をした場合の手続き、高齢運転者に対する免許の自主返納やそれに係る制度の紹介を担当しております。

C  氏(警察・適性) 同じく運転免許センターで適性係をしておりますCと申します。適性係というのは、一定の病気に該当する疑いのある方に診断書を求めまして、その方が運転を継続できるか否か確認する係になります。

泉田優香(居宅・CM) ケアプランセンター桜井の里の泉田優香と申します。よろしくお願いします。高齢者の運転免許の勉強がしたくて、今日はこのテーマで勉強会が行われるということで参加させていただきます。

小野里晴美(訪看E・看) 訪問看護ステーションあすもの看護師の小野里です。なかなか難しい問題かなと思っておりますが、皆さんのご意見、教えていただければと思っています。

石井 登(包括・リハ) 弥彦村地域包括支援センターの石井と申します。認知機能と高齢者の方の移動というところでは、日々いろんな課題等に接することがありますので、勉強させていただきたいと思います。

渡辺晃代(行政・保) 三条市地域包括ケア推進課の地域ケア総合推進センターの渡辺と申します。認知症施策につきましては引き続きセンターの業務となりましたので、よろしくお願いいたします。

坂井美和子(川瀬・看) 川瀬神経内科クリニック看護師の坂井と申します。毎日高齢者の方が受診されて、今日も何人か診断書ということで受診されてます。診断がついて、車の免許、運転ができないと言われたときのショックといいますか、それを日々見ていますので、今日も助けになるようなアドバイス等があればと思いまして参加しました。

原島哲志(川瀬・介) 川瀬神経内科クリニック、かえるハウスの原島です。かえるハウスの方でも 70 歳以上の方で自分の車をお持ちになって、入居されてる方が何人かおられるというのもありますし、自分自身運転していても、高齢者の方の運転で危険だなというのを何度も目にしていることもあるので、今日は非常に興味深く参加させていただきたいと思います。

高橋芳雄(川瀬・介) 同じく通所リハビリテーションかえるハウスおたまじゃくしに勤務しております高橋と申します。普段高齢者の方々と接して仕事をしておりますし、私個人的には、公共交通の整備が少し脆弱ないわゆる田舎に住んでおりますので、そちらの視点からも今日はお話ができればなと思っております。

渡辺敦之(川瀬・介) 免許停止中の渡辺です。川瀬神経内科クリニックのかえるハウスで介護しています、渡辺敦之です。

石川雅子(川瀬・CM) 川瀬神経内科クリニックでケアマネをさせていただいております石川です。私自身も燕市の田舎に住んでおりまして、車がないと生活が立ち行かないような地域で、義母の免許返納もこの間したところですので大変興味があります。

川瀬敦士(川瀬・リハ) それではディスカッションの方に入っていきたいと思います。ディスカッションをする前に、様々な立場からご参加いただいてますので、私の方で勝手ながら期待する事として1枚スライドを挟ませていただきました。医療・介護職の方々はそれぞれの立場で普段の具体的な関わり方、運転停止の説得方法などサポートの体制などお話を聞かせていただけたらなと思います。そして今日は行政の立場から三条市、そして警察の方、免許センターの方が来られていますので、行政の自主返納者支援、あるいは免許更新のプロセスや介護者の相談窓口、アドバイスなどありましたらお話を聞かせていただきたいと思っております。事例が7例挙がっております。1 から 3 までが返納済み、そして 4から7までが返納未です。最適解がないこともあると思いますが、それぞれの立場でご意見いただければ、立場が変われば本当に参考になる意見があると思いますので、どうぞお気軽に思ったことや、それぞれの立場で感じてることをお話しいただければと思います。

事例①  入院中に免許返納済

川瀬敦士 では早速1例目です。この方は川瀬神経内科クリニックの看護師の坂井さんから上げてもらった事例です。免許が返納に繋がった事例ですが、私のほうから読ませていただいた後、事例を挙げてくださった坂井さんの方から補足などしていただきたいと思います。I さん男性若年性のアルツハイマー型認知症ということで、2018年6月の後半から夜に車で出かけるようになり、今まではすぐに戻ってきていたが、10 月に入った頃から車で出かけて1時間半くらい戻ってこないことがある。車の鍵を隠して運転できないようにしたが、逆にパニックになり、鍵を元の場所に戻した。最近は昼夜問わずに車で出かけ、この前は山奥で林道にはまり、もう少しで谷に落ちるところだった。車で出かけて事故に遭い、人でもひいてしまったらどうしようと不安で仕方ないと妻より相談があった。主治医より精神科病院へ紹介状。そして精神科病院の医療ソーシャルワーカーに相談し医療保護入院となった。入院中に車の処分をし、免許証返納の手続きを行ったということです。では坂井さんの方からよろしくお願いします。

坂井美和子(川瀬・看) この方は、前頭側頭型認知症で行き先がわからなくなったり、見当識障害があったり、易怒性もあったので、奥さんが何か言うと、カッとなってとても対応ができない、とても普通には話ができないということで、精神科にお願いして無事に入院が出来たというケースです。

川瀬敦士(川瀬・リハ) ありがとうございます。易怒性と見当識ですね。帰ってこられなくなるということはそういったところもあるでしょうし、あと家族が止めても怒ってしまって大変だったり。先生にお伺いしたいのですが、紹介状を書いて、対応してくださったということですが、どういったケースなんでしょうか?

川瀬裕士(川瀬・医師) 認知機能テストはそこまで落ちてないタイプでした。例えば20 代でも30代でも認知症ではないんだけど、かなり精神的に不安定で、幻覚などがあったりとか、そういった人たちも本当は運転しない方が良いと言えるでしょう。程度に応じてなんですけど。認知症の場合は、精神症状がメインで出てくるものもあります。この人の場合、診断自体は結構難しくて前頭側頭型認知症のような感じでもあるし、アルツハイマー型認知症のような感じでもありました。この方は若年性なので、最初は大学病院にも紹介してるんですよね。その中で、一定の診断が出て特殊な治療を必要としない通常の認知症として対応していくしかないという方でした。一般的な認知機能テストをするとあまり悪くはないのですが、やっている事はかなり危ないという方でした。今回すぐ入院になったのは毎日運転していて危ないっていうのもありますし、家族の方もかなり精神的に疲弊していたので、ご家族の気持ちのゆとりを持たせる意味で、入院の希望もあったんだと思うんですけど、精神科病院へ紹介しました。現場はかなりいろんな背景もありながらやっているという感じです。

川瀬敦士 ありがとうございます。本当に困ってしまったときは受診して、先生の方からそれが例えば記憶力や認知症の物忘れとかだけじゃなくても、こういった精神的なものもあったときには精神病院へ紹介状を書いて入院という流れもあるということですね。

事例②  認知症診断後免許返納済

川瀬敦士 では次ですけれども、この方も当院の外来ですね。免許を返納された例です。Kさん、女性、MCI からアルツハイマー型認知症に診断が変わったという方です。2017 年9月より3回警察より診断書提出命令にて受診、MCIとして提出。2019年7月、再度、警察署より診断書提出命令にて受診。検査の結果、認知症に移行しており、自主返納を勧める。同月別日に免許を返納したので認知症の治療をお願いしたいと受診され内服開始となるということです。この方は、警察より診断書提出命令にて受診されていますが、運転免許センターの方にお伺いしたいのですが、診断書提出命令というのはどうすれば出てくるものなのでしょう?どんな流れなんでしょう?まず、我々の立場からどこを問い合わせればいいのでしょうか?

C  氏(警察・適性) 診断書の提出命令につきましては、主に更新時の認知機能検査に該当するものが多いと思われます。75歳以上の方が免許更新する際は、現在認知機能検査が義務付けられておりますが、35点以下の方は認知症の疑いがあるということで診断書を出して病状を確認させてくださいというのが診断書の提出命令になります。その診断書の提出命令を行って、認知症ではないということになりましたら免許の更新はできるのですけれども、やむなく認知症という診断が出てしまった場合には免許が取り消されるという形になります。

川瀬敦士(川瀬・リハ) ありがとうございます。調べていると認知症によっては、認知症になっても回復する場合とか猶予期間みたいなものもあったりするんでしたね。

C  氏  そうですね。認知症でも回復可能性のある認知症に該当する場合には免許取り消しではなく、一般的には免許停止になり、また停止明けの頃に診断書の提出命令という形で病状を確認させてくださいということになります。

川瀬敦士 ありがとうございます。あとMCIの場合はまた認知症とは違うと思うのですが、MCI として提出された場合にはどのような動きになっていくのでしょうか?

C  氏 一般的に MCI、認知機能の低下という診断結果でありましたら、また6ヶ月後に診断書の提出をお願いするという形になります。この場合には、診断書の提出命令という形ではなく、任意の診断書を求めるという形でお願いしています。なので、MCIの場合には免許のほうは継続できるのだけども、半年後に診断書が必要です。

川瀬敦士 ありがとうございます。坂井さんからこの事例を挙げてくださったのですが、3 回警察より診断書提出命令と書かれていますが、この辺をちょっと教えていただきたいです。

坂井美和子(川瀬・看) 先ほど説明があった、MCI は 6 ヶ月後に任意で診断書が来るので、6 ヶ月ごとに診断書を持参されて提出していたということです。

川瀬敦士 任意ですけれども一般的には皆さん半年ごと。そういった半年後に来てくださいねというのは、このクリニックの外来の方で患者さんにお伝えするんですか?

坂井美和子 いえ、自宅の方に郵送されていきます。

川瀬裕士(川瀬・医師) この方について最初に説明した方がいいこととして、3 回警察により診断書提出命令が出たというのは、1 回目の診断書提出命令を持ってこられ、いろんな検査をした結果、この人は軽度認知障害MCI でしたという結果を書いていたんです。だからそのまま継続になって運転していて、半年経過したのでまた来ました。そこで評価をしました。その時もMCIでした。というのを3回繰り返してるという意味です。だから良い状態で保たれていた。横ばいで来ていた人が4回目をやったらガクッと点数が落ちていたということです。我々のクリニックで診断書提出命令を書いている人をこの1年間で見てみると、この軽度認知障害で連続5回、6回、7回通っている人がいるんですよね。2 割ぐらいは1回目で認知症という人もいるんですけど。この診断書提出命令で来られる方の多くがMCI なんですよ。世界的に見ればいろんなスタイルがある中で、MCI の段階で診断書提出命令が出るというこの今の日本の制度は結構良いなと思ったんですよね。ちょっと手前で声がかかるという。そこで、半年に1回フォローというのもまあまあ妥当かなと。2 回目で落ちちゃって駄目な人もいるし、8 回ぐらい良い人とかもいるんですよね。軽度認知障害から正常のレベルに戻る人もいると言われているので。そういう意味で、この3回やったという、この人にとっては1年半ぐらい、大丈夫だったからということで運転する期間を得れたというのは良いことだったと思うし、一方で家族はちょっと不安もあったし、本人も不安もあったかもしれない。この方は結局、最後は書類を書かずに自主返納することになりました。認知症の診断をつけるためのいくつかテストがある中で、その人が最初の3回、軽度認知障害になっているのは、ご家族の評価が良かったんですよね。本人がやるテストでは認知症レベルに入っているような方でも、ご家族が本人の様子を見て評価する他のテストの場合は、ご家族の思いとかも微妙に入ってきたりするんですよね。厳しい家族なのか、運転してほしいと思っている家族なのかでも分かれてくる。それがあからさまに客観性を欠く評価になってしまう場合、それは含めない方が良いという場合もあるんですよね。極端な話だと、本人にやってもらうテストはすごい重度の認知症なのに、ご家族の評価をすると正常みたいなことがあって、そういう場合、また別のご家族にもお話しを聞いたりする。この人もそれと同じような傾向があって、最後の停止になった MMSE16 点という中程度の認知症レベルの時でさえ、ご家族の評価は軽度認知障害相当になってるんですよね。この時は家族に説明をし、相談した上で最終的に自主返納になったという例ですね。

川瀬敦士(川瀬・リハ) ありがとうございます。免許の診断書提出命令が来られた方でも、2 回3回と言ったので1年とか1年半ぐらいは免許取り消しにならない方がいても決して珍しくない。その間も経過を追っている。周りに免許の診断書提出命令で受診されてるような方はいますか?

泉田優香(居宅・CM) 私は関わったことがないです。元々関わる前に止めましたという方か、止められずに、どうしたら止めてもらえるのかなと悩んでいる方が、そちらの方は過去に数名いらっしゃいました。

川瀬敦士 そういう方が後々更新あるいは違反などをしたときに、こういう命令が来るかもしれないっていうことだけれども、今のところはいなかったということですね。

泉田優香 はい、そうです。

川瀬敦士 小野里さんは普段関わられている方はいかがですか。どんな方がいらっしゃいますか。

小野里晴美(訪看E・看) 訪問看護をしています、男性の方1名、女性の方1名で、独居で暮らしていらっしゃる方ですけれども、どちらも免許の方は返納されています。ただ、実は、私の実家に両親住んでいまして、明らかな認知症ではないのですけれども、ADL*2の低下とか高齢によって免許返納してもらいたいなと、娘としては思っているのですが、なかなか説明してもまだまだ近くまでというところで運転しています。そこに問題っていうと先ほどもあったようにその生活が困難になる。というのがやっぱり大きいのかなと。免許返納してもらうには、認知症であろうとADL の低下であろうと生活をいかに支えるかというところが大事なのかなとやっぱり感じているところであります。

*2  ADL(日常生活動作):人間が毎日の生活を送るための基本的動作群のことであり、具体的には、(1)身の回りの動作、(2)移動動作、(3)その他の生活関連動作がある
出典:厚生労働省HP

川瀬敦士(川瀬・リハ) ありがとうございます。本当にそうですよね。その人にとって意味があることですからなかなか簡単には失えないライセンスだと思います。このあと事例の中でなかなかやめてもらえないというのはケアマネジャーさんから挙がっていますので、そこでいろいろな書籍の対応なども紹介しながら進めていきたいと思います。

事例③  服薬調整後、自主免許返納

川瀬敦士 次の事例に進みたいと思います。3 例目、こちらも免許を既に返納された方です。クリニックの外来の方です。Oさん、男性、アルツハイマー型認知症、2022 年1月にS内科・消化器内科クリニックで認知症と診断されています。翌年の2月に整骨院に行くと出かけたが戻らず、携帯も繋がらず、数時間後本人から山奥で車が抜け出せなくなって動けなくなったと連絡があった。やっとのことで探し出した。この件から家族は車の免許を返納させようと本人に伝えたが、「運転できないなら首をつって死ぬ」などと言う為、家族は車の運転をやめさせることが出来なく、本人は運転していた。7 月になって聖篭町運転免許センターに相談したところ、免許センターより免許の診断書が送られてきたが本人は拒否している。デイサービスをほぼ毎日利用させているが帰って来てから車を乗り回し、休みの日には満タンにして出かけ、その日のうちにガソリンがなくなるくらいに車を乗り回している。またイライラし家族に対して攻撃的で家族も疲弊している。受診させたいと包括より相談があった。まず信頼のある主治医に紹介状をお願いし、紹介状持参での受診を勧めた。9 月になり当院受診。内服の調整。ドネペジルの中止。メマンチン、非定型抗精神病薬の漸増処方。徐々に穏やかになり、本人は納得して免許証は自主返納された。まず坂井さんの方から何かあるでしょうか?

坂井美和子(川瀬・看) 本当に困っていらっしゃっていてどうしたらいいかということで相談があって、かかりつけ医の先生はとても信頼されているので、その先生の紹介状をもとに受診されていました。薬の調整で穏やかになって、自主返納されたということで本当によかったケースです。

川瀬敦士 では院長の方から、服薬の調整ということですが。

川瀬裕士(川瀬・医師) この方、2022年1 月に、認知症を専門に診るクリニックではないところですが、そこで認知症の診断がもう出ていて、認知症に対する薬ももう出ていたんですね。ということは、さっきの話と繋がりますが、この時点でもう運転してはいけないよということを本人・家族に説明して、今はもう運転していないですよね、という展開になっているというのが、一応本来の形になっているのですけど、いろんなことがあったのでしょうし、本人のこういう気持ちもあったから、そのままいたということですね。介護認定もされていて、既に要介護1でデイサービスを週6回利用している。普通に考えて通常の認知症になっているレベルですが、その方に診断書提出命令が届いているという時点でちょっと矛盾は感じました。一応この方は認知症のテストをしたら、そんなに悪くないんですよね。ほんとにギリギリのところなんですよね。非常に難しい込み入ったケースですね。本人が言っていること、自分はまだ大丈夫だというのもある程度外れてはいないんですよね。本人の意思も尊重したいところですし。まずこちらに来てやったことは、出ていた認知症の薬の一部を中止して、別の認知症の薬に変えたり、気持ちを穏やかにするための薬を追加していって、その上で説明をして、納得していただいて、「運転は危ないですからね」ということで、返納になったというケースです。家族はやめさせたいと思っている場合はまだ良いんですが、そうではなくて、明らかに認知症がありそうで、事故も起こしそうで、周りからもいろんな情報が入ってきていて、薬の飲み間違いもあったりして、症状からは認知症が強く疑われて、検査をしても認知症レベルだった場合でも、家族の方が認知症を認めないというケースもあるんですよね。うちの夫はそんなボケていないとか、うちのお父さんまだしっかりしているとか。そこで、認知症を専門に診ている医者だったら、いくつかの検査をした上で、本人たちにもある程度の説明はできるのですが、必ずしも認知症を専門にしていないお医者さんがその書類を書くこともあって、その先生方はそこで「あなたは認知症ですから運転しちゃ駄目ですよ」とはっきり言いづらいし、もしそれで別の病院で、「認知症ではないですよ」となったら、医師としての責任というのを追及されるかもしれないと考える先生もいると思う。結果的に運転を容認する形になってしまうことも現実的にはあると思う。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 包括といえば石井さんが参加されてますが、このようにご家族が対応に困って相談されるようなことはありますでしょうか?

石井 登(包括・リハ) 自分はまだこういったケースを経験したことはないのですけれども、話が事例①のところに戻ってしまうのですが、以前病院等にも勤めていましたので、軽度認知障害の方で、少しトラブルがありまして、家族が車の鍵を隠してしまって、それですごくパニックになってしまってすごく大変だったっていう事例があって、その時は結局鍵を戻してから、自損事故があった時に家族が根気強く説明しながら返納につながった事例でした。車を運転させないように無理に介入すると、かえって不穏になってしまったりというところがなかなか家族としてはすごく悩みどころだったりするのかなというケースがありました。診断書提出命令が出るとき、医療機関の指定があるのか主治医でいいのか専門医がいいのか、その辺はどうですか?

川瀬敦士 その診断書のことについてお願いいたします。

C  氏(警察・適性) 免許センターのCです。提出命令につきましては、特に認知症の場合には病院の指定はないんですけども主治医または専門医という規定がありますので、認知症関係の診断書を出してもらうときには主治医か専門医を受診するよう教示しています。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 石井さんよろかったでしょうか?

石井 登(包括・リハ) はい、ありがとうございます。

事例④  返納未-家族が説得に苦慮

川瀬敦士 では次の事例に移りたいと思います。4例目ですね。これはケアマネジャーさんからの事例です。Nさん、脳梗塞後遺症があるが、自動車の運転を毎日している。県外に行くことがある。事故を起こしたこともあり、家族は運転をやめてもらいたいと言っている。しかし、本人は「車がないと、医者にも行けなくなる」「誰が連れて行ってくれるんだ」と言ってきかない。ということで、まだ返納はされてない方なんでしょうか。今までは、入院したり、服薬の調整をしたり返納に繋がりましたが、こういったケースももちろん多いわけです。どのように説得をしたらいいのか。先ほど石井さんから鍵を隠して結果怒られてしまったということでしたので、うまくいかなかった例もあります。ここで書籍に書いてあったことなどをいくつか紹介させていただきます。まず説得手順です。(図4)

図4:書籍紹介-免許返納の説得手順

①配偶者が説得
②実子を交えて説得
③医師が家族に助言与えながら説得
※「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル」
等を活用しながら説得する

宇田川充隆,石田康:認知症高齢者の自動車運転.
九州神経精神医学,62巻,第2号,2016

「認知症高齢者の自動車運転を考える 家族介護者のための支援マニュアル」は国立長寿医療研究センターで発刊されているもので、こういったマニュアルがあります。これはインターネットでいつでも見れますので検索していただければと思います。その中にはこういった事例がありました。(図5)

図5:書籍紹介-自動車運転の中止事例

・認知症が軽度であれば理解が得られやすい早めの話し合いをもつことが重要だった事例
・運転中止に抵抗感を示すも、半年かけて徐々に運転しない生活に慣れていった事例
・遠方に住む息子さんの協力を得ながら中止に取り組んだ事例
・警察のアドバイスにより公安委員会に医師の診断書を提出し免許の取り消しになった事例
・息子が同乗し運転チェック、妻が免許取得した事例

「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル」
国立長寿医療研究センター 長寿政策科学研究部 2020年
https://www.ncgg.go.jp/cgss/department/dgp/

次に説得方法についていくつか書籍からご紹介します。(図6)

図6:書籍紹介-様々な対応策

車屋さんに他の車のキーをもらい、同一のキーホルダーに付け替えておいて、エンジンをかけられないようにしました。「なんでエンジンがかからないのか?とイライラし始めたら、「車屋さんに修理してもらいに電話しておきますね」とつないで、「部品を取り寄せていて、時間がかかるらしいですよ」などと伝えます。

「服部安子が応える!認知症ケアの真髄」
服部安子 フジメディカル出版 2018年

 

説得するときには、具体的な例を示しましょう。
「お父さんがもしも事故起こして刑務所に入ったら、私は生きていられないよ。相手への補償もできないわ」などと静かに言う。

「服部安子が応える! 認知症ケアの真髄」
服部安子 フジメディカル出版 2018年

 

専門医から言われると納得するケースが多い。物忘れ外来を訪れ認知症と診断された人やその家族には、認知機能の低下が及ぼす運転への影響などを説明している。その上で自主返納を勧める。

「オレンジブック2」 新潟日報 2019年
みどり病院認知症疾患医療センター 成瀬聡

 

運転の様子を観察してメモをとる車に同乗して、車間距離の取り方、カーブの曲がり方、信号など交通規則順守の状態を観察し、メモをとりましょう。それをもとに、かかりつけ医や専門医、そのほかご本人が信頼している方から、「もう運転をやめねばならない状況だ」と言ってもらいましょう。

「認知症 知って安心!症状別対応ガイド」
数井裕光・杉山博通・板東潮子 メディカルレビュー社 2012年

 

尊敬できる人や信頼できる人から「運転を止めるように」と言われると素直に納得する人が多い傾向。
運転免許の更新のとき、「運転免許制度が変わって、高齢者は免許の更新ができなくなった」と目上の人から話してもらいましょう。
自動車を止めて自転車にする。

「認知症の9大法則50症状と対応策」
杉山孝博 法研 2013年


川瀬敦士(川瀬・リハ)
 また、警視庁のホームページに「運転時認知障害早期発見チェックリスト30」というものがありました。これもいつでもみれます。これは例えば同乗する息子さんとかがこういうチェックリストを持ち歩いて気づきになるので紹介してみてもいいのではないかなと思います。30問のうち5項目以上で受診検討とされています。

事例⑤  自転車で自立も、その後に退行

川瀬敦士 ここでもう一方事例紹介をします。Sさん、通所サービス利用中に家族が勝手に車を売り払った。家族に対する怒りがしばらく続いた。3輪の自転車を購入し、買い物へ出かけたが、転倒したため、まったく自転車に乗らなくなり、閉じこもりがちとなった。代替手段として自転車はいいのだけれどもこういったようなこともあるんだなという事例です。事例をいくつか紹介しましたけれども、ケアマネジャーの立場として、石川さんご自身で何か関わっておられることがあったら教えていただけますか。

石川雅子(川瀬・CM) 何名かは診断を受けて、即運転をやめて廃車にし、自主返納したというような方を持ったことがあるのですが、お一方、夫婦2人暮らしで、奥様の方が認知症で要介護認定を受けてサービス使っていらっしゃる方です。この方は、まだ免許を持っていられますがもうしないと言って、おそらくこれからもする心配がない方ですが、旦那様がその分移動手段を担っておられて、ご主人は介護認定を受けておりませんが、持病があってすごく体調の変化に波がある方で、車に傷がついているような状態で自損事故もあるのではないかなと心配して見ております。でも、その方も病院へ通ったりとか、工場もしてらっしゃるので、その方の車を取り上げると奥様も含めて移動が難しくなるので、生活が立ち行かないのでご本人も認知症の奥様も娘さんたちも心配はしているけれども、免許返納はもうちょっと先でもいいかなということで、心配が大きくなってきているなというのは感じてる方はいます。

川瀬敦士(川瀬・リハ) ちょっと危なっかしさは見えてきているけれども、免許停止の診断書まではいっていない方ですね。そういう早い段階から家族とかで子世代なども含めていろいろ相談できればいいですしね。その方にとっての、車がなくなるとやはりご夫婦での生活がすごく困るというところがあるからどういうふうに保障していくかこの後の話とかになってくるのかなと思うんですけどAさんいかがですかね。

A  氏(訪看F・看) 私も職場が少し僻地な方なので、高齢者の方たちは独居とか高齢世帯のご夫婦が住んでるときには、やはり車が移動手段になるので、危ないなと思っていてもなかなか返納できないというのが現実だったりしてますし、やはり本人が納得しないと返納できなかったり、家族がそれを認めないというところもあって、お話を聞いてるとその通りだなと思いながら聞いていました。

川瀬敦士 新潟県警の方はいままでの事例について、どう思いますか?

B  氏(警察・支援) 今ほど出たお話や事例、高齢者支援係では安全運転相談と称していろんな相談を受けつけております。安全運転相談というと、言葉からは非常に曖昧で、中には道路交通法に関することとか、病気に関することとか、たくさんあるんですけれども、受けた中で家族から自分の親や、親のさらに上の世代、祖父祖母の運転が危険だから免許を何とかやめさせたいという相談もよく寄せられます。そのときに私の方からいつもこういう答えになるんですけども、まず免許証の自主返納というのは、本人の同意が必要で、本人が自主返納することに納得していないのに、家族が、本人の同意なく取り消すことはできません。ですので、説得あるいは先ほど何回か出ている診断書による行政処分、そういったことを紹介するにとどまります。例えば、本人に電話を代わってもらって「家族の方がこういう相談をしています。心配しています。全国では非常に悲惨な交通事故も起きています」等と伝えます。そういった例や、先ほど資料の中にもたくさん出てきたんですけども、免許を返したときの、運転をやめた際のメリット、人を怪我させない、自分が怪我しない。あとは、車の維持費がかからなくなるですとか、運転経歴証明書を提出・提示することによって、公共交通機関の割引などのサービスが受けられる市町村もあります。そういったことを説明して、本人に返納したいと思ってもらう。それが今のところ、こちらからの対処法となっております。ただあくまで私の私見ですが、これで返納に至る例というのは非常に少ない。やはり本人は運転を継続したい。だからなかなか返納には至らないという例の方が多くなっております。家族の方によく言われるのですが、事故が起きてからでは遅いんじゃないかと。そんな警察の、運転免許センターのやり方で、公共の交通の安全を守れるのかと。ひどい時には先日にも新発田で発生しましたが、子供が被害に遭うケースなどがありますと「免許センターのほうで厳しく対処しないからだ」というような厳しい意見も寄せられることがあります。逆に高齢運転者からは、 「高齢者に厳しいんじゃないの」という意見も寄せられます。なかなか今日の問題・課題といいますか、高齢者の免許に関してどういうふうにするのか。いろいろ定年制にしたらどうかとかたまに意見があがることもあるのですが、先ほど説明があったように、年齢だけで認知症になるか決まっていませんので、それもなかなか難しいケースなのかなと思います。いつか客観的にこうなったら返納ですよとなったらわかりやすいですけども今のところ難しい。私としても相談がくるたびにいろいろ思いながら対応している次第です。

川瀬裕士(川瀬・医師) 世界的に同じ問題になってきていて、日本は高齢者が多いというのもあるし、道が狭いとか、いろいろあるんですけど、海外だと限定免許というのありますよね。エリアを区切ったり、時間帯を限ったり、最高速度の制限が普通の人よりも厳しいという。それは日本では導入されていないわけなんですけど、今後あることなのか?僕の意見としては、あんまり限定免許ってそんなに良くないなと思っているんですよ、実は。というのは自分の家の近所とかで誰かをひいたりはねたりしたらそれこそ大変なんですよね。これはお聞きしたいのですが、駐車場の事故が多いですよね、アクセルとブレーキを踏み間違えるという。高齢者とか認知症の方がはねちゃうというのは、停まった状態から動き出すとか、駐車場内での事故とか結構あったような気がするんですよね。今日本は限定免許という時間とエリアを区切ったものはないですが。その辺のことで何かお考えとかありますか。

B  氏(警察・支援) 私自身はこれまで、各国で採用されているようなエリア限定免許を日本で採用するというような話は聞いたことがありません。一つあるのは、サポートカー限定免許*3というのがありまして、要はサポカー限定。これは何かというと、自動ブレーキですとかそういった保安基準を満たした車じゃないと運転できませんよという条件を自分の免許に課することをいいます。まだ始まって数年の制度なんですけれども全国で100 人にも達していません。昨年の時点でまだ数十人、100 人にいっていないかと思います。

*3  サポートカー限定免許:高齢運転者を中心に、交通事故防止対策として先進安全技術を搭載した「サポートカー」に限り運転することができる運転免許のこと
出典:警察庁HP

川瀬裕士(川瀬・医師) サポカー限定は良いかなと思うんですよね。エリアで区切っても身近で事故が起こることがありますし、要するにぶつかりそうになるとブレーキがかかったりするわけですよね。テクノロジーに依存するところではあるけれど、多分そんなに遠くない将来、そういうふうになっていくと思うんですよね。大きな話をすると、今から20年後30年後の認知症の人は、8 割は自動運転で運転できるかもしれないですよね。だからそう考えると、今の認知症の方が一番ちょっとかわいそうなのかなって思いますが。確かにテクノロジーの面でのそういう制度が動き出したりしているけど、まだ普及していないというのであれば、そこをもうちょっと僕らも情報を知りたいし、一般の人にも届くような形に今後なっていくと良いのかなと今思いました。

B  氏(警察・支援) 現状のサポカー限定の制度ですが、申請には注意は必要です。安心安全というメリットはあるんですけれども、それをすることによって、更新料金が下がるですとか、講習を受けなくていいとか、そういったことはなくて、単にその限定された車両以外の車両を運転してしまうと、条件違反になってしまう、道路交通違反を課されてしまうというデメリットが生じます。例えば、車検に出すその間乗っている車がサポカーであればいいんですけれども、車検に出したりして、代車をもらう、代車が古い車だった、これを運転したら違反になってしまうですとか、こういったケースは注意が必要です。ちなみにサポカー限定免許が導入された経緯については、先ほどからの運転免許の自主返納というのが何回か出ていまして、安全に過ごすためには免許の自主返納、だけどそこにいくまでの間にもうワンクッション設けるのがこのサポカー限定免許です。 「サポカー以外の運転する免許を返納しよう」から生まれております。現在まだ国内でもそれほど広まっていない制度、自分でサポカー限定免許にした人はまだ多くない制度になっています。いわゆる免許証の自主返納の一部返納ということになりますね。例えば、今日完全になくしますよという方は、全部返納という扱いなんですけれども、そうではなく例えば中型免許を持っている方で、サポカー限定にするという場合は、まず中型の免許を返納します。普通車の免許だけに限った状態で、さらにサポカー限定免許、サポカーに限るっていう、よく免許条件に、眼鏡等ですとか、オートマ限定とかあります。同じように運転できる車両を、そのサポカーとして認定された車両に限るというのがサポカー限定免許の制度になっています。もちろんいつでも例えば免許センターや警察署に行って、サポカー限定の免許にしたいとなれば、いつでも可能なんですけれども、持っている免許の種類によっては更新時に行わないと免許の再発行の費用がかかってしまう場合があります。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 今の情報は結構知られてないことかもしれません。車自体がまだまだ良い値段しそうですしね。

C  氏(警察・適性) 適性係は認知症の他にもいろんな診断書を受理するわけですけれども、脳梗塞・脳卒中関係の診断書を求めますと、一般的に補償運転*4というんですけども夜間の運転は控えてください、交通量の多いところは控えてください、家族同伴ですよと備考欄に書いてくれる病院があります。

*4  補償運転:交通事故を防ぐため、高齢ドライバー自身が運転する時間帯や場所を選択したり、体調がすぐれない時に運転を控えるなど自らの意思で安全な運転方法を選択すること
出典:行政HP

川瀬敦士 現行では難しいけれども認知機能が低下しているからと言っても一概に停止ではなくてということですね。

C  氏(警察・適性) そうですね、補償運転については結局法的な拘束力はないですけれども、こういうのが守れるのだったら、免許のほうは続けられるんじゃないというような見方でもいいのかなと思います。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 脳卒中の方ではもう既にそういうのがあって。

C  氏 そうですね。脳梗塞の案件は高次脳機能障害と言いまして、身体に障害は無いけれども脳の機能に障害があるといった方にはそういう補償運転というのを記述してくる先生がいらっしゃいます。

代替え手段に不安

川瀬敦士 ありがとうございます。次に進んでいきたいと思います。代替の移動手段に困っているということでケアマネジャーさんからですね。Iさん、運転免許返納を検討している。自家用車の車検が切れるタイミングで、やめようかと思っている。心配なことは受診時の交通手段。デマンドのバス停のことがよくわからない。もう1人同じような方なので続けていきます。最近は、運転免許の更新時や車検のタイミングで本人が車の運転をやめることを決断するケースが増えていると感じています。ご家族が説得することも増えています。しかし、三条市のデマンド交通*5が市街地は「のるーと*6」に代わり、使い方が分からないと言われることがあります。また、タクシーの予約が困難で、通院後、帰りのタクシーがなかなかつかまらず、長時間待つことがあるそうです。そのようなことから、車が無いと本当に不便だと言われます。これは石川さんの方から上げてくれた例かと思います。

*5  三条市デマンド交通:三条市街地エリアではワンボックスカー・ミニバン車両、北・南・下田エリアではタクシー車両を使用し、市内全域にある停留所間を運行する公共交通
出典:行政HP

*6  のるーと:AIによる効率的な配車を行い、ワンボックスカーやミニバンを使用した乗合いを前提とした運行システム。三条市デマンド交通と同じ停留所を使用し、料金は一律500円(小学生以下は半額)。運行範囲は市街地エリア内の移動のみ。2023年10月1日から運行開始
出典:行政HP

石川雅子(川瀬・CM) 川瀬クリニックの石川です。 「のるーと」を私もホームページとかで検索してみたのですが、字が細かくて全部読む気にならないというか、地図を見てもルートがすごく複雑で、乗り場とかがいっぱいあって便利ですけれども、スマホを通じての予約をしないと代金が100円上乗せされていたりとか、電話して、当日にというとハードルが高くて、億劫だというか、ぱっとその場で電話でとか、ケアマネジャーも説明をしても、理解できないような複雑さがあるので、厳しいなと思っております。タクシー券とかを自主返納するともらえる市町村もあるかと思うのですが、それも利用の期限があったり、お釣りが出なかったり条件があるので、やっぱり使うことに対してある程度ノウハウがないと使えません。それこそ受診も控えるし、お薬をもらいに行くのもちょっと我慢して耐えるみたいなところを聞くので、良い方向になれればなと思いました。以上です。

川瀬敦士 先ほどあったサポカーとか技術革新が進めば解消できる問題なんでしょうけど、今の世の中でもできることということで行政の方でもいろいろ取り組みをしてくださってますが、このような声が市民から上がりましたが、現状デマンドとか「のるーと」とかについて詳しく知らない人もいると思いますのでそこら辺から教えていただければと思います。

渡辺晃代(行政・保) 三条市の渡辺です。デマンド交通はバス停がありまして、今年度変わったのは市街地エリアが「のるーと」になったということで、今までのデマンドと違うのは料金が一律500 円になったという部分だと思います。エリアが決まっていますので、下田、栄は含まない旧三条市内のまた限られたエリアの中で、それが 500円で乗れて、それは電話でももちろんOKなんですけれども、アプリを使うと100円割引されますという感じなので通常は500円になります。それを超えたエリアについてはこれまで通りのデマンド交通になりますので、距離と相乗りがあるかないかによって値段が変わります。停留所まで行かなければいけない。市街地はいいんでしょう、市街地は割と使われているらしいんですけれども、慣れてくると皆さん簡単らしいので、最初の操作のところをやってみるっていうところがないと難しい。職員で試しに使っている方もいますし、飲み会で使ったり、飲み会のときの朝晩使ったりとかそういう形で若い方も結構使っている方もいらっしゃいます。一つデマンドで毎回言われるのが、停留所まで自宅から遠いという方がいて市街地はまだ良くても特に下田はその停留所に行くまでにタクシーを使うという方もいらっしゃるんです。そこが公共交通でどこまでカバーできるかというのが課題だなと思っています。下田ですと、地域性があるので医療機関が送迎をしてくれたり、その目的地が送迎をしてくれるというところが増えてきているなと感じています。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 石川さんいかがですか。

石川雅子(川瀬・CM) 若い人も積極的に使う方が、ご家族の人が使ったことがあるからうちのおじいちゃんおばあちゃんにも勧められるなというのがあるので、私も乗ったことがないので、どこかの機会で体験してみたいなと思いました。ありがとうございます。

渡辺晃代 先ほど最初の先生の説明や事務長の説明でもあったんですけれども、免許返納した時の、免許を返すことが生活の変化に繋がったりとか、返すことって何のメリットが本人にあるんだろうというところが一番難しいなと思うのと、返さなきゃ駄目な状態の方が返す直前って、その運転は有効な運転になってたんだろうかというのもあったりして、そこがわからないなというのはあります。三条市は免許返納のメリットがあまりなくて、唯一やっているのが、おでかけパスというデマンド交通に複数人で乗った時に割引になったり、市内の協賛店の食堂に行ったら何%引きなどの割引が受けられるカードです。そのおでかけパスは発行料に1000円かかるのですが、免許返納者でしたら無料になるという優遇しかないので、直接それが移動手段の助けになるかというとなかなか難しいなと。結局、自分で自由に運転して出かけていた方が免許を返すということは、誰かの手を借りないと移動ができないということになるので、その誰かの手をどう借りるかというのが、何の調査をやっても移動手段が課題に挙がってきます。こちらとしても今後そこは考えていかなきゃ駄目な問題というふうには捉えていて、受診とか買い物という必要なお出かけもあれば、趣味のお出かけもあって、そこをどこまで行政がカバーできるかなというのを今後考えていかなきゃ駄目かなとは思っています。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 免許を持っていたときに比べてしまうと、どうしてもまだまだ追いつかない部分があるのかなと、どうも難しいところですよね。いくつか書籍からも紹介したいと思います。車を手放すことの経済効果です。(図7)

図7:車を手放すことの経済効果

・車両代、維持費の試算をしてみると年間で約70万円の負担
・タクシー233回利用できる(1回:初乗り710円10キロ乗車で3000円)

家族みんなで考える「運転免許返納」ガイド
一般財団法人 日本交通安全教育普及協会 洋泉社 2019年

デマンド交通や「のるーと」のような割安だけれども、使い勝手がちょっとということがあります。車両代、維持費の試算をしてみると年間で約70万円の負担となり、これはタクシーを年間で233 回利用できる計算になり、これだけ自動車にお金がかかっていたということも一つの説得方法として紹介されています。また、今はわざわざ買い物にあえて行かない人もいるぐらいなので、宅配サービスやネットスーパーなどを利用するなど、あとは身分証して必要だと言っている人もいたかと思いますので、そういった方は運転経歴証明書があると思います。(図8)

図8:移動以外のフォロー

・食品や日用品の買い物 宅配サービス、ネットスーパー
・写真付き身分証明書 運転経歴証明書

家族みんなで考える「運転免許返納」ガイド
一般財団法人日本交通安全教育普及協会 洋泉社 2019年

また、藤田さんという認知症当事者の声としてこういったものもあります。(図9)

図9:認知症当事者の声

車の安全運転支援システムや自動運転システムなどの技術開発、自ら運転しなくなったあとも移動手段に困らないようなまちづくりにも力を入れてほしいです。

「認知症になってもだいじょうぶ!そんな社会を創っていこうよ」
藤田和子 徳間書店 2017 年

そしてこちらも先ほどからありましたが、安全・安心なカーライフの3つの提案ということで、日報の記事でありましたが、サポカーへの乗り換え、後付け安全装置、自治体ができるというのもあるみたいですね。(図10)

図10:新聞記事

安全・安心なカーライフの3つの提案
サポカーへ乗り換え
後付け安全装置
免許返納、自治体が支援
2019 年は 65 歳以上の返納者初めて1万人突破

新潟日報(日刊) 令和2年2月29日

B  氏(警察・支援) サポカー限定免許でいうサポカーというものが、一般的に流通している言葉としてのサポカーよりさらに厳しくなっていまして、保安基準による国が定める基準に該当しているかなどの条件があります。一般にサポカーといわれている車が全てサポカーかといわれるとそうではなくて、サポカーと思って乗っていたら実は違反だったということも考えられなくもありません。ちなみにサポカーかどうかを判断するにあたっては、警察庁のホームページにこの車種・型番ならサポカーですというふうに調べてわかる現状に今なっております。

川瀬敦士 どんどん新しい車も出ていますからね。把握するのも難しいかと思います。では休憩を挟んだ後にみなさんから感想や質問などがあればいただきたいと思います。

感想

川瀬敦士(川瀬・リハ) それでは最後に感想を一言ずついただきたいと思います。

坂井美和子(川瀬・看) 今日はありがとうございました。今日も認知症と言われて運転を辞めるのは困ると言われた患者さんがいらっしゃったのですが、今日の話で誰のどの手を使うか、どのようにサポートしていくかということが大切なので、それがきちんと話し合えてアドバイスができるようなスキルを持てるといいなと思いました。あと免許返納の説得手段として信頼のある方ということで3番に医師とあったのですが、「実際に言ってもすぐ忘れるので、先生から紙に書いてください」と言われる方がいらっしゃいますが、そういう際にはきちんと患者さんに運転をやめるようにということを書いてくださっていますのでご相談ください。以上です。

原島哲志(川瀬・介) はい、お疲れさまでした。診断書の提出命令が半年ごとにやってくるというのを私もちょっと知らなかったので、非常にいいんだなというのがよくわかりました。もっといっぱい引っかかっている人がいるのではないかなと正直運転していると思いますけど。あと、私の母親は今81歳ですが、4年くらい前に免許はもう返納しているのですが、一度ぶつけて、人じゃなくてよかったねという話で。それで本人もそうだねということですぐ返納されて、それからは私が買い物に連れていっているのですが、そういう対応ができているうちはいいなとは思いますが、やっぱりタクシーを使うとか、何か三条市が便利になるといいなとは思っております。ありがとうございました。

高橋芳雄(川瀬・介) 今日もいろんな話を聞けて大変勉強になりました。今回話に出てこなかったのですが、地域格差もやはりあると思うんですよね。その辺は我々個人でできる話ではないので、行政に頑張っていただくなりしていただいて、そういう地域格差が是正されていくといいなと思います。あとやはり認知症になる前に、道義的な判断・合理的な判断ができるうちに返納について家族でしっかり考えるというのも大事なことなんじゃないかなと思いました。ありがとうございました。

渡辺敦之(川瀬・介) 今日は勉強になりました。ありがとうございました。

石川雅子(川瀬・CM) 私燕市在住で、義理の母がつい先日、74歳で外科的な手術をしてもう歩けなくなって、返納しました。そのとき燕市の警察の方に行ったのですが、A4 の紙にものすごく大きな字で 「私は自分で納得して自分の意思で返納します」と署名をするのがあって、その紙の印刷の字が大きくてまずすごく感動したことと、担当の人に何回聞き直しても丁寧にこうですよ、こうなったらこうですよと質問でも何でも答えてくださるような対応で、やっぱり本人が納得して返納したと。返納したときの免許証も持って帰りますというので穴を開けて下さって、いろんなトラブルがそれまでにあったと思うのですが、丁寧にしてもらって、連れてきた家族も良かったですし、本人も「諦めがこれでついたわ」というような形で返納できたので、良かったなと実感としてあります。

B  氏(警察・支援) まず、本日はこのような会に参加させていただきまして誠にありがとうございました。医療・介護の立場からのお話や事例を知ることができまして大変参考になりました。私が相談を受ける中でよく、認知症かどうかは警察では判断できません。お医者さんでの診断をお願いしますというようなことを当事者・相談者に言いますが、本人と連携性の深い主治医の立場から、認知症と診断するのをためらう現実があるという話が大変印象に残りました。高齢運転者にとっても交通関係にあっても、より平和で安全で良い制度が生まれたらいいなと思います。なかなか一朝一夕で変わるものではありませんが、今後も道路交通法等は変わっていくと思いますので、今後の良い変化に期待したいと思います。本当にありがとうございました。

C  氏(警察・適性) 本日は参加させていただきましてありがとうございました。私の思うところとしましては、結局免許返納をしたイコール運転をしないというわけではないと思うんですね。私の方によく話が来るのが、免許返納した後に無免許運転をして事故を起こした。こういう事例も時々あります。なので、最終的には返納イコール運転をしないということではなくて、しっかりとご家族対応していただいて、物理的に運転ができない状況を作っていただくというのは必要なのかなと思います。こういう機会があったら積極的に参加したいと思いますので今後またよろしくお願いいたします。何か病気に関する相談事がありましたら、適性係のほうになんでも言ってください。本日はどうもありがとうございました。

川瀬敦士(川瀬・リハ) わかりやすい問い合わせ先はありますか?

C  氏 そうですね、免許センター適性係に直通電話があります。

川瀬敦士 あるいはホームページとか何か見れば書いてありますか?

C  氏 ホームページ等にも書いてありますので適性係の直通電話に繋いでいただければ相談に乗ることは可能でありますので、よろしくお願いいたします。

川瀬敦士 警察の適性係ですね。では泉田さん、お願いいたします。

泉田優香(居宅・CM) 今日はどうもありがとうございました。私の印象に残っていることは、事例の3番目の方だと思うのですが、服薬調整後に気持ちが穏やかになって自主返納に繋がったというケースが紹介されていまして、そんなことってあるんだなって勉強させていただきました。なので今後、今関わってる方への関わり方の参考にしたいなと思っておりました。貴重な経験ありがとうございました。

小野里晴美(訪看E・看) 本日は大変ありがとうございました。私が訪問させてもらって、ちょっとこれは変だなと思ったときに、まず早めの専門医、川瀬先生に伺いますのでどうぞよろしくお願いします。その中で、それから出てくる問題、車も含めて生活も含めてというところを、身近な方々とともに、相談させてもらえたらなと思っています。ただ、例えば地域としても、認知症を支えられる地域という活動はしていますけれども、まだまだ不足している部分があるのかなとも感じているので、ぜひ認知症になったら、私は認知症です。助けてくださいと住みやすい地域になるといいなと思いました。以上です。ありがとうございました。

A  氏(訪看F・看) 皆さんのご意見を聞いて、自分もそうだそうだと首を振りながら感想を聞かせてもらいました。私も義理の父が免許返納するときに、母と一緒に、タクシーの方が車のガソリンよりは安いよみたいな話をしながら少しずつ返納していったかなと振り返りながら聞かせてもらっていました。車の運転は、好きなときに自由にお出かけできるというメリットがあると思いますが、免許を返納すると自由なお出かけができなくなってしまう。そんなことで引きこもりっぽくなって、さらに認知の部分が進んでいくかなというところもちょっと感じたりしているところもあります。今日はいろんな方のご意見など聞けてとても勉強になりました。ありがとうございました。

石井 登(包括・リハ) 今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。最後に一点質問してもいいですか。サポカー限定の免許があるということだったのですが、今日初めて知って勉強になったのですが、これはご本人がこういう免許にしますというお話だったかと思うのですが、例えば主治医や免許センターのほうからそういう限定というような指定があることもあるのでしょうか?

B  氏(警察・支援) サポートカー限定免許については、公安委員会が指定するものではなくて、本人の申請で自分の免許に条件を付けるという制度になっておりまして、例えば、認知機能の低下があるからサポートカー限定免許にしますということはありません。

石井 登(包括・リハ) ありがとうございます。自分が今関わらせていただいているケースで、包括で高次脳機能障害の方になるのですが、脳梗塞後で注意障害が少しあってということで、お体が元気なので介護保険がつかないし、なんとか運転できるように、支援はありませんかということで関わらせていただいたケースです。もしも、注意障害などの方でそういったサポートカー限定みたいなことでの可能性もあるのかなということで少し伺ってみたところでした。ありがとうございます。あとは印象に残っていることとして、返納後というところを包括支援センターとしても考えていく必要があるなということで、やはり免許返納後も生活に困らないというケースでは返納に繋がるケースもあるのかなと思うのですけれども、全く運転しないと生活に本当に困ってしまうケースだとなかなか難渋するケースが多いなと思うので、そのあたりも行政とも相談しながら考えていく必要があるなと思いました。あとはやはり今関わってるケースも返納に至ったのですが、その後閉じこもりになる可能性があるというところで悩んでいる部分ですので、また閉じこもらなくても良いような地域作りというところも考えていかなきゃいけないなというふうに改めて感じました。ありがとうございました。

渡辺晃代(行政・保) 今日は皆様からいろいろお聞きいただきましてありがとうございました。感想を述べさせてもらいたいと思います。今ほど石井さんからもお話があったように、私も返納して生活がどう変わるのかが、その方1人1人によって違っているのかなと思った時に、免許を返すことは、その方にとってあまり嬉しくないことを言われて更新できないために返さなきゃいけないというマイナスのイメージで返す方が強いと思うのですけれども、返した後にどんな生活になるのかというイメージとか、そこの手立てがどんな方法があるのかという辺りを丁寧に考えて、提案していく必要もあるんだなと思いました。それが生活にどうしても必要な移動手段としてのものと、今ほど話がありましたけれども、社会交流や社会参加の維持というところをどうしていくのかというところもあったと思うので、それが免許を返納した後にどんなふうにご本人の思いに寄り添った支援体制が組めるのかなというのは、行政として、移動の仕組みをどう出来るということだけではなく、今出来ることとして考えなきゃ駄目だなと思って聞いていました。感想ですが、警察の75歳以上の方に行う免許更新時の検査でMCI レベルがわかるんだなというのがわかって、その段階で診断書がないと更新できないということが、MCI レベルでも機会があるんだというのが、すごく参考になりました。それと少し関係するのですが、最初の導入のところでお話いただいた、認知症によって運転のどんなところに影響が出てきそうなのかというのが、すごくわかりやすくて、このスライド後でいただきたいなと思いました(図3)。MCI レベルになって診断書を出せと言われたときに、この説明をいただいて、もやっとした「認知症だから運転が危ない」ではなく、 「ここができなくなる」というのが非常に具体的でわかりやすかったので、将来に備えて一般の方に知っていただくのも大事かなと思って聞いていました。私自身がすごく勉強になりました。特に警察のほうでMCIレベルで、診断書が必要となった方にこそ、こうなったらもう返さなきゃ駄目だよっていうのを前もって説明ができるのかなと思いました。あと最後に、夢のような話になるかもしれませんが、最後は認知症があっても自由に出かけられるような技術革新といいますか、自動運転とかサポートカーが標準装備として当たり前になるくらい技術も進むといいなと思いました。ありがとうございました。

川瀬裕士(川瀬・医師) お疲れ様でした。本当にいろんな意見もあるし、今僕も感想をいっぱい持ちましたし、話し足りないこともたくさんありますが、大局的な二つの見方として最後話しますけど、まず一つは現実問題として、認知症の人や高齢の方が起こす事故によって人が死んでいるということですよね。2019年の東京であった、80代の男性が31歳のお母さんと3歳の子供をひいて死んでしまったという事故ですね。大きな、誰がどう考えても防ぐべきだった、どうやったら防げたのか考えなきゃいけないこと。高齢者本人の自由が奪われるとかいろいろありますけど、これはどうにかして減らさなきゃいけない。ドライバーが事故を起こしてしまうということ自体は若い人でもあるし、認知症でなくても、病気がない人でも、健康な人でもありうることなのかもしれないけど、そういったことをどれだけ減らしていけるかという視点は持ち続けてなきゃいけない。もう一つは、本人の立場に立つと、買い物はネットでも買える。それから、例えば週に1回必要なものを家族に買ってきてもらう、一緒に買いに行く、それで事足りたりもしますよね。バスに乗る、「のるーと」を使うこともできるのですが、僕が患者さんを診ていて、やはり一番奪われるなと思うのは、車を乗って自由に好きに出ていくという、大きな自由ですね。初めて車の運転免許を持った若い人が感じる、今まで電車でしか行けなかったところに24時間、夜中でも、自分で車に乗ればどこでも好きなときに1人で行けるんだという大きな自由ですね。そういうものが奪われるというのが一番大きいのではないかなと。今日は例が出ませんでしたが、一日中車を乗り続けていたという、車を運転すること自体がその人にとって楽しい時間だったりする人もいるし、行こうと思えばいつでも行けるという心持ちや自由を味わえている。逆に言うとその自由がなくなるという部分に関しては「のるーと」とか乗り合いとかではなかなか補えない。自由に行きたい店に行って、ただぶらぶら見たいんだとか、そういったものはなかなか叶えられない。その先に出てくるのは、自動運転ということで、これは多分、そう遠くない未来だと思いますが、だんだんとこれも現実には進んでいくと思うんですよね。サポカーといったような事故を限りなく起こしにくい車や、それを認める認定制度というのが、多分できてくるのではないかなと思うので、それができたら、安全と自由の両方を確保できるかなと。そこには期待したいです。最初の、事故を起こしてしまって、認知症がかなり進んでいるにもかかわらず、運転しているという人に関しては、何とかして医療機関に行ってもらって、認知症があるということであれば、我々の方からも、はっきり本人にも伝えますし、実際に免許の失効という形で区切りをつけることができる。それでも免許がなくても運転しちゃう人も確かにいるんですよね。その人たちには本人というよりも家族にしっかり伝えなければいけません。止めなきゃいけないんだと。あなたのお父さんお母さんが近所の方をはねたらあなたたちも大変ですよねと。そこまで言わないと息子さんたち娘さんたちは、結局自分のお父さんお母さんが認知症になって運転できなくなると、自分たちが代わりに送り迎えなどしなければならないというデメリットを感じて、まだ運転させてほしいという思いに引っ張られちゃう人も結構いるんですけど、そういったところも具体的に家族・本人に説明して僕なりにできることをやっていきたいと思うので、最初に戻りますけど、自動車運転事故による死亡例というのをなくすというのを忘れずにいきたいなと思いました。今日は本当に僕自身すごく勉強になりました。ありがとうございました。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 皆さんのおかげで今回も大変有意義な会になったと思います。お時間になりましたので認魂研修会を閉会いたします。本日は誠にお疲れ様でした。ありがとうございました。