お問い合わせ

0256-33-9070川瀬神経内科クリニックへ繋がります。

認魂レポート

第9回テーマ : 被害妄想にどう対応するか?    

参加者:
【介護職】石川雅子1 小出薫2 高橋芳雄1 原島哲志1 布施良知1 山家小百合3
【介護支援専門員】渡辺美佳子1  【薬剤師】加藤智世4 長谷川義浩4) 山寺忠之4
【看護師】大野裕子5) 坂井美和子1   【作業療法士】 川瀬敦士1  【医師】川瀬裕士1)  

介護職・・・以下「介」
介護支援専門員・・・以下「CM」
薬剤師・・・以下「薬」
作業療法士・・・以下「リハ」
看護師・・・以下「看」

1)川瀬神経内科クリニック、通所リハビリ樫の森・かわせみ、サービス付き高齢者向け住宅かえるハウス(以下「川瀬」)
2)グループホームこころつくし(以下「GH」)
3)あさひケアセンター月の郷(以下「SS」)
4)メッツ嵐南薬局(以下「薬局」)
5)あさひ訪問看護リハビリテーション(以下「訪看」)

 


 

氏  名(所属・職種)
川瀬敦士(川瀬・リハ) 定刻になりましたので始めます。初めに当院院長より開会の挨拶をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。


川瀬神経内科クリニック 作業療法士 川瀬敦士 氏

川瀬裕士(川瀬・医師) みなさんお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます。今回は、被害妄想というテーマですね。ついに9回目まできました。認魂のホームページを見られたことはありますか?内容としてはボリュームのある感じになっていて読むと疲れてしまうかもしれませんが、ここで実際に話していると結構あっという間だったりします。普段感じていることや、いろんなことをどんどんとお話いただければと思います。よろしくお願いします。


川瀬神経内科クリニック 医師 川瀬裕士 氏

川瀬敦士 始めに被害妄想に対応することの意義や本人や介護者の気持ちに触れたいと思います。第9回のテーマ、被害妄想にどう対応するかということですが、まず認知症の当事者の気持ちの方から考えていきたいと思います。被害妄想で代表的なものに“物とられ妄想”というものがあります。自分の大切なものが見つからない場合、普通は失くしてしまった、どこかに置き忘れてきたのではないかと自分の責任として捉えるわけですが、認知症の初期から中期の方というのは、盗まれたのだと、自分の失敗を認めようとしない。この根底には自分の認知症への不安や葛藤。そして周囲に理解されない不満があるという風に言われています。また、介護者への感謝や負い目。そして上下関係の逆転など複雑に絡んで出現するという風に言われています。一人暮らしだった人やお金に苦労した経験がある人もこういった症状が現れるということを言っている専門家もいるようです。箇条書きにしてみます。(図1

: 本人の気持ち

・世話人になってばかりで申し訳ないという負い目。
・誰も当てにしてくれなかった。
・役割がなくなって寂しい。疎外感。
・このままじゃ不安。
・こんな状況に耐えられない。
・安心できるあなただからこそ言ってしまう。
・前はこんなはずじゃなかった。
・この人に下に見られている。(上下の逆転)

 

妄想は関係を逆転しようとする試みと言われています。そういった気持ちが背景にあるといわれています。そして一方で家族・介護者の気持ちですが、犯人にされたり、的にされるのは、多くの場合、娘さんやお嫁さんなど一番身近な人、一番お世話をしている人という風に言われているようです。ですから余計に悔しいですし、怒りを覚えてしまう。もうこのまま介護を続けられないという思いにもなってしまう。また、家族ではなくヘルパーさんや介護職に対して現れた場合、見方を変えると身近な存在になったとも考えられるのではないかともいわれているようです。次に家族と介護者の気持ちです。(図2

: 家族・介護者の気持ち

・なんて酷いこと言うの。
・身に覚えがないようなこと言われて。
・あなたのために一生懸命なのに。
・私の言うことをなぜ信じてくれないの。
・このままでは介護を続けられない。

 

という気持ちが考えられるのではないでしょうか。被害妄想に対応することの意義を2つあげてみました。①妄想の元となっている本人の不安感、疎外感、自信の喪失などがあるならば、それ自体の改善をするということは意義のあること。②介護者と本人の関係性が改善し、特に介護者の心理的負担が軽減することで、介護の継続が期待できる。それでは事例紹介に移りたいと思います。ある程度の対応策の意見が出ればいいですが、そうじゃないこともあります。「自分も同じケースを経験したことありますよ」「こんな感想持ちました」でもいいのでどうぞ気楽に発言して頂ければと思います。ではさっそく初めのケースです。石川さん説明して下さい。

 

代わりになるものを使う      

石川雅子(川瀬・介) 今はデイケアに週に3回、他のデイサービスに週に3回、毎日お家から出ていらっしゃるおばあちゃんです。もう何年も来ていらっしゃいますが、利用の当初、「介護保険証を盗まれた。家族が盗んだのではないか」というような感じで訴えがあり、一日中その心配をしているような感じで、家族の人から「(介護保険証と)同じようなものを作ってもらえませんかね」と話がデイケアの方にあって、他の方の物を真似して作らせて頂きました。普通に見るとあきらかに印刷された保険証とはちょっと違うものですが、ご本人に自分の名前と住所が書いてあるし、「これありましたよ」とお渡ししたら「よかった~」と落ち着かれて、それ以来全く訴えがなく解決 したということです。


川瀬神経内科クリニック 介護職 石川雅子 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ ありがとうございます。うまくいった例ですね。なにかこのケースに関して聞いてみたいこととかありますか。渡辺さんどうですか。

渡辺美佳子(川瀬・CM) この方は介護保険証についてだけこだわりがあったのでしょうか?


川瀬神経内科クリニック 
介護支援専門員 渡辺美佳子 氏

石川雅子 この時はそうでしたね。また今も「上着がない。どっかにいった。盗まれた」とか、この前は「入れ歯がない。誰かが盗んだ」とか。不定期ではありますが、1回出るとその日だけではなく、ある程度の期間続くので、なかなか手強い相手です。

川瀬敦士 介護保険証というものの使い方とか存在とかがこの方はよく分かっているのですね。大切なものって認識はありましたか?

石川雅子 そうですね。来た時は自分で歩いて医者に行くとか、自分でバスを乗り継いでここに来ていたような方なので。

川瀬敦士(川瀬・リハ) その介護保険証は、どんなものですか?今日はないですよね。

石川雅子(川瀬・介) ないですね。

川瀬敦士 まあダミーで作れるものであればね。現金だとやっぱりそうはいかないですし。

石川雅子 何回も失くしていて、ご家族が再発行するとかの手間があって、ご家族が実際に預かっていたので、代わりが欲しい、どうにかしてほしいというような感じでしたので。

川瀬敦士 本人に渡していると、失くしてしまう恐れがあるからということですね。

石川雅子 そうですね、何度も実績があったので。

川瀬敦士 どうでしょうかね。ダミーとか何か代わりになるものを渡した経験がおありの方いますか。今回書籍の中でも、被害妄想は女性が多いみたいです。次にいきたいと思います。続いては布施さんですね。お願いします。

 

妄想への対応でストレス?

布施良友(川瀬・介) 送迎時に準備が出来ていないという女性の方ですが、ごちゃごちゃしているお宅で、お家に迎えに行くと、以前同居していた甥っ子の方をワラベと言って、「ワラベが勝手に私のものをいじってぐちゃぐちゃにしたから準備が出来ない。分からない」と言って、時間がかかったりする場合がありました。この方は、特にデイケアに来て不穏になるとかそういうことはなく、他の方と話をする時に「おれのワラベが勝手にいじったりする」といった愚痴をお話される方ですね。この方は娘さんとの2人暮らしです。その娘さんはご本人の言っている「ワラベが来てイタズラする」と言うことにすごく丁寧に対応するので「ワラベが勝手に入ってきた」と言うと、家の鍵を入れ替えたり、今は県外に住んでいる甥っ子さんをワラベと言っていますが、「ワラベが来た」と言うと、実際に甥っ子のいる県外に連れて行って、「ここにいるから新潟には来ていないだろう」と言うような。


川瀬神経内科クリニック 介護職 布施良友 氏

川瀬敦士 県外まで連れて行って?

布施良友 何かのついでなのか分かりませんが、実際にその方の言うことを真に受けるというか、ほんとに対応してしまう。娘さんに対して不満とかはでないけれども、ワラベという方に対しては「ワラベが勝手におれの物をいじる。部屋に入ってきて勝手にどっかにやる」と不満をずっと言って、なくなった物は全部ワラベのせいにされていられる方でしたね。

川瀬敦士 その対応に同居されている娘さんは困っている様子ですかね?ある程度処理できていますか?

布施良友 例えば鍵を入れ替える対応をしているのに妄想は消えない。娘さんからしたらそこまでやっているのに…。なくなったものは人のせいにする。

川瀬敦士 介護者の娘さんが心配な気がしますが、この場合はどうですか。原島さん。

原島哲志(川瀬・介) ワラベはたぶん言い訳のいいキーワードでしょうかね。自分ができないことに気づいていたりとすると思うので、遅れたりしている事を全部ワラベのせいにしてきた感じがします。娘さんが鍵を変えるのは、そこまでする人もなかなかすごいなと思います。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 心配ですよね。

原島哲志 だからワラベが消えることはないと思いますね。家族がやっぱり上手に理解をしていく必要があると思います。


川瀬神経内科クリニック 介護職 原島哲志 氏

川瀬敦士 どうですかね。訪問している中で被害妄想のご家族の対応とかで何かご経験はありますか?

大野裕子(訪看・看) 「家族が自分をのけ者にしている」と思い込んでいる女性がおりました。娘さんは一生懸命やっているのに、親子ケンカになることが多々ありまして…。娘さんもストレスが溜まっていたので、訪問時はよく話を聞きましたよ。今回の事例では失礼ですが、ワラベという存在を悪者にしてその人の話に合わせて「そうだよね。ワラベがぐちゃぐちゃにしたよね。でも時間だから支度して行こう」って娘さんに言ってもらい送り出してあげれば本人は納得できたのではないでしょうか。娘さんは生真面目な印象を受けますが、介護においてすべてきっちり対応してしまおうとすると、ストレスフルになってきて潰れてしまうのではないかなと思うんです。娘さんからしてみたら甥っ子さんは親戚にあたるからその人を悪く言うのは悪いなって思う気持ちもわかりますけど、お母さんの前ではそういう役になってもらい上手に割り切ってもらうのがストレス回避にはいいのかなあと。ただ、訪問していても今までの家族内の関係性だなと思うところには踏み込めないので見守っていたりしています。


あさひ訪問看護リハビリステーション 看護師 大野裕子 氏

川瀬敦士 娘さんからはそういった会話とかはありますかね。

布施良友(川瀬・介) ある程度は話もしますが、1回は「そうだよな」と娘さんも言いますが、やっぱり期間が経つとどうしても同じような対応をします。娘さんもストレスがすごく溜まって、デイでも外来の方でも娘さんの話を聞かせてもらっていました。今は入所されて娘さんと一緒に住んではいません。当初はいろんな話を娘さんから聞いて対応させてもらっていました。

川瀬敦士 第三者的にデイケアのスタッフがガス抜きに話を聞いたりするのもいいかもしれませんね。外来の診察場面とかで被害妄想とかってご家族から困っているとか聞かれたりすることはありますかね。

坂井美和子(川瀬・看) この方はレビー小体型認知症の方で、アリセプトを先生が出されましたが、なかなか服薬がうまくいかなくって、なかなか妄想が治らなくって、娘さんも限界で入所したというケースですけれども、レビー小体型認知症による妄想のことが結構あります。あとはそうではない被害妄想の時は家族関係があまり良くないとか、そういうことが多いので「受け入れてあげてください。本人を否定しないでください」とかそういう話をさせていただいています。


川瀬神経内科クリニック 看護師 坂井美和子 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) レビー小体型認知症の妄想と言うのはどういう特徴がありますか?

川瀬裕士(川瀬・医師) レビー小体型認知症は一般的には妄想の他にも幻視や鬱が多いと言われています。妄想も含めて、精神症状が早期の段階から出やすいので、アルツハイマーだとBPSDで困るのは進んでからが多いけど、レビー小体型認知症は早期の認知機能が保たれてそれなりにいろんな考えができたりする段階から精神症状が出るので、目立ちやすいっていうのがあるかもしれないですね。薬がよく効くこともあるので、そこは医療的な判断をして薬による改善が期待できるかもしれないので試してみたい。ただそれだけで解決しない場合もたくさんあるので。被害妄想には非定型抗精神病薬を使うけれども、BPSD に関して国の指針では、なるべく非薬物療法をやって、それでも駄目だったら抗精神病薬で幻覚や妄想、興奮を抑えるというのが基本的な方針だけれども、レビー小体型認知症に関しては抗精神病薬を使わなくても通常の抗認知症薬だけでわりと良くなってしまうことがあるので、そこを見逃さずに使うこと。またメマンチンという薬も被害妄想に良いと言われています。ただ外来で注意しているのはすぐ薬と言わずに背景となっている人間関係を改善するとか、家族の人に本人に対するアプローチの仕方を変えてもらうようなことはまず先に言う。ただ家族もそれでストレスになっていることがあるのでバランスを見ながらやっていたりしますけどね。

川瀬敦士 ごちゃごちゃした部屋っていうのはその幻視とかではない?

布施良友(川瀬・介) そうですね。認知症で整理整頓がつかないというか、本当に汚れていると言うか。

川瀬敦士 薬局さんはどうですか?

山寺忠之(薬局・薬) ワラベの方は、お宅に伺ってお話をしています。居宅療養管理指導(薬剤師が行う場合)が入っているので。


メッツ嵐南薬局 薬剤師 山寺忠之 氏

川瀬敦士 そうなんですね。

坂井美和子(川瀬・看) すごく山寺さん悩んでいらっしゃいましたもんね。

山寺忠之 娘さんは真面目に被害妄想とかに対応しすぎるように思います。そういうことを言うのは適切かどうかわかりませんが。それですごく負担を感じているようで、ずっとそれに対応している印象があります。すごく疲れているようでした。たぶん我々が行くと、安らぎじゃないですけど、話をして、はけ口になっていたのかなって思います。だいたい行くと1時間とか1時間半くらい話をしていました。

川瀬敦士(川瀬・リハ) すごいですね。訪問看護さんはそんなに長くいることはありますか?

大野裕子(訪看・看) 次の訪問予定があるので限りはありますが、できるだけご家族のお話を聞き介護の苦労をねぎらっています。ご家族支援は重要だと考えていますね。

山寺忠之(薬局・薬) 介護されている方はほんとに大変で精神的なストレスは抱えていらっしゃるのだなっていうのは感じていました。今は施設に入居されたので行ってないですけど。

川瀬敦士 加藤さんも訪問されますか?

加藤智世(薬局・薬) 同じく、ローテーションで訪問していました。

川瀬敦士 じゃあその方も行かれましたか。

加藤智世 毎回、同じような感じで、すごく疲れを訴えられていて。ご本人様は「ワラベが。ワラベが」って。耳も遠く、なかなかコミュニケーションも難しいこととか、そういうのも障害にありました。


メッツ嵐南薬局 薬剤師 加藤智世 氏

石川雅子(川瀬・介) お迎えに何回か行ったことはありましたが、明るくて冗談が通じるようなおばあちゃんで、薬袋とあけていない新品のお菓子袋がいっぱいあるような、わーって布団の周りにいろんな紙があるみたいなところにいらっしゃる方でニコニコとワラベの話をしています。

川瀬敦士 だからこそ娘さんもほんとに憎めなくてお母さんのことに答えてあげたいっていう気持ちになるんでしょうかね。

坂井美和子(川瀬・看) 現在は入所されて薬がきちんと飲めることでワラベはいなくなったそうです。そこの看護師さんに聞いたらすごく穏やかに生活されているとのことでした。やはり薬がきちんと飲めていなかったのですね。

山寺忠之 薬の余りがいっぱいありましたから。

川瀬敦士 薬剤師さんが入って薬が飲めるようになったということですか。

山寺忠之 結局我々が入っても飲めるようにはなりませんでしたね。娘さんが管理してくれればいいのですが、娘さんは管理出来ないと。薬はお母さんに渡してしまっている状態でした。家族を絡めて管理してもらいたかったんですが出来ませんでした。毎回行くと残薬がいっぱいある状態がずっと続いていました。

川瀬敦士 それが飲めるようになったっていうのは良かったですね。

山寺忠之 本当に良かったと思います。

坂井美和子 今は本当に穏やかですって。

川瀬敦士 服薬は大事ですからね。居宅療養管理指導(薬剤師が行う場合)をぜひ使っていただければと思います。次のケース、お願いします。

 

誤認

布施良友(川瀬・介) 夫に対する被害妄想。この方は女性の方ですけれども、私が外に出ている間に夫が浮気をしていると。この方は毎回ではありませんが、朝はおだやかでも、何かの拍子で被害妄想のスイッチが入るとデイケア参加中でも男性スタッフをみつけては「あなたお父さんでしょ」と聞いたり、「私がここにいる間に女性を連れ込んでいるから帰らないといけない」と言って、一旦不穏になると泣き出したりとか、もう帰らせてくれと室内をうろうろと歩き回るようなケースでした。落ち着かないので帰る時間までマンツーマンで対応させてもらって、不穏の時は寄り添うような形で対応させてもらいました。この方も本人のスイッチが一度入ると、とてもじゃないけど大変だということで現在は小規模多機能型居宅介護の施設に移りました。ご家族もこういう症状が出るとすごくストレスがたまるというような話をされていましたね。

川瀬敦士(川瀬・リハ) なるほど。この方はアルツハイマーの方ですか?

布施良友(川瀬・介) この方もレビー小体型認知症でしたね。

川瀬敦士 レビー小体型認知症の人は嫉妬妄想とかがありますか?

川瀬裕士(川瀬・医師) 誤認がすごく多い。重複記憶錯誤とか、カプグラ症候群とか、幻の同居人とかいろんな名前がついていますが、自分の夫が目の前にいることが分かっていても別の場所にもう一人いるとか、事実をちょっとずれて理解してしまってそれが固定化してそれが真実だと思ってしまうことがあります。死んだってことが分かっている人でも今日帰ってくると言ってみたり、ナータリング症候群といいますが、普通では考えられないような、「お父さんって何年か前に亡くなっているんですよね」と言うと「はいそうです。でもなかなか帰ってこないんだよね」と言ったり、全然違う場所にいると言ったり。カプグラ症候群は親近感の感覚のずれが生じる病態なので目の前にいる男の人は、自分がよく知っている旦那ではあるんだけれども初めて見た人のように感じると、ずれを感じるから、偽物じゃないかっていう風に考えたりする。そういうことが誤認、間違って認識するということ。情動に関することも含めて誤認が多いので精神的には不安定になりやすいと言われています。

川瀬敦士 そうすると不安感とか疎外感とかとは別に根本的に誤認とか認知の部分、認識する部分で、そういうものも原因となると関わり方とかも難しくなってくるのかなって思って聞いていましたけれども。文献の方でも見ていきましょう。どういう対策があるのか触れておきましょう。

 

嫉妬妄想

 

認知症のよい対応わるい対応 

浦上克哉 日本評論社

軽く手を握って安心してもらう。縫いぐるみで気をそらせる。”

介護者(配偶者)には病気からくる妄想と理解してもらい患者さんと言い争いにならないようにする。“

“嫉妬妄想二つのタイプ。①頼りがいのある夫を失うのではないかという心配から生じる人②過去に浮気をされた経験を持つ人。”

 

新しい認知症ケア 介護編 

三好春樹 講談社 

“介護を抱え込まずデイなどへいく。周囲に豊かな人間関係をつくる。”

 

これで想定しているのは家族が外に出ているけれども、本人はずっと自宅にいて、介護者が外に行っている間に浮気しているのではないかという、自分はこんな閉鎖された中で孤立しているのに、だから自分も介護者の知らないコミュニティを作ってあげることで嫉妬妄想が減りますよっていうような書かれ方をしています。だから逆に旦那さんのほうが「お前デイサービスでいい男の人いるんじゃないの」なんて会話をしてあげたり、そういう関わり方もいいみたいなことが書かれていました。どうですかね。嫉妬妄想は初めてでましたけど、グループホームとか、あんまりないですかね。

小出薫(G・介) うちはみなさん女性ですけど、あまり旦那さんには関心がない。どっちかというと子供とかの方に関心があるのであんまり嫉妬妄想はないですけど。


グループホームこころつくし 介護職 小出 薫 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) あんまり多くないんですかね。

山家小百合(SS・介) 子供のほうが…。

小出 薫 子供のことで頭がいっぱいとか。昔の頃に戻ってしまって兄弟や親の話で頭の中がいっぱいで、旦那さんの話はあまり出てこないです。

川瀬敦士 過去の記憶になるということですかね。高橋さん、ここまで聴いてどうですか。


あさひケアセンター月の郷 介護職 山家小百合 氏

高橋芳雄(川瀬・介) 院長先生がおっしゃられたようにレビー小体型認知症の方で誤認とかは薬の対応が必要となってくるとは思います。また一般的な被害妄想は事実を突き付けても、説得しても、逆効果ですよね。まず信頼感を得るというか、この人が何を心配しているのかをしっかりと受け止めてあげることからやっていかないと。どの対応についてもいえることだと思います。嫉妬妄想ですと旦那さんのことが大好きなんでしょうね。その辺のことを周りの方がよく分かってあげるだけでも一歩前進だと思います。

川瀬敦士 いいアシストできそうですね。ご主人のことを会話に出して。

高橋芳雄 「旦那さん優しかったでしょうね、どんな優しいことされました」とか言って、楽しい思い出話とかしてあげるといいかと思います。

川瀬敦士 旦那さんのことを心配するっていうのは稀な人なのかもしれないですね。

布施良友(川瀬・介) そうですね。結構稀というか。かわせみの方でも旦那さんについての妄想はこの一件だけですね。

川瀬敦士 被害妄想に対して話を聞いていますと、しっかり正論を言うのではなくて話を聞いてあげるということが大事かと思います。では次にいきたいと思います。山家さんお願いします。

 

だまされた!

山家小百合(SS・介) うちのデイサービスを利用している男性の方で、デイサービスを利用したその足でショートに泊まって、次の日もまたデイサービスに行くといった感じです。夜間に入るとまずは一旦居室の中に休まれますが、夜中あたりに職員のいるところにきて「勝手に連れてこられた。誰かにだまされた」と言ってずっと2時間3時間そばに座って動きません。話にうんうんと傾聴して聞いていますが、だんだん怒り声になってきて、周りは寝ているのにすごい怒鳴ったりします。それに加え「お金を盗まれた。ここに泥棒がいる」と毎回夜間になると言います。この男性は独居で、奥様は別のところに入所しています。息子さんご夫婦とも折り合いが悪く、県外に住んでいて疎遠になっている状態です。担当のケアマネさんにもいろいろと文句を言って、「誰々が勝手に決めた」とか、なんだかんだと言って必ず夜間に入ると夜間の職員に怒鳴って、大きな声を張り上げてずっとそこで座っている状態です。

川瀬敦士(川瀬・リハ) そういう状態は結構長く続いていますか?デイに行ってショートに行くというサービスの利用の使い方っていうのは。

山家小百合 この一件があって今はデイサービスの利用しかなくなりました。ヘルパーさんが入ったりして、この一件はもう終わりました。

川瀬敦士 今は在宅にお住まいで、週何回かデイサービスを利用されているのですね。

山家小百合 そうですね。どうにもこうにもならなくて、デイサービスを利用して泊まらないで、自宅に帰ってヘルパーさんが入るという状況を作りました。

川瀬敦士 ショートでこういうふうになるわけですね。

山家小百合 そうですね。入口を超えてショートの方に来ると一旦は夕食を食べてから居室に入って休むけれども、突然11時とか12時になると職員がいるところに来て騒ぎ始めます。周りに寝ている利用者様も気づいて起きたりすることが結構続いたんですよね。

川瀬敦士 対策としてサービスをショートからデイサービスにしたと。でもやっぱり夜、泊まって欲しいというニーズがあったから最初は利用したと思いますが。ご家族は?

山家小百合 独居です。

川瀬敦士 独居でヘルパーをつないでやっているということで。夜はまるっきり一人になる?

山家小百合 そうですね、一人になります。

川瀬敦士 でも自宅では一人だから、自分の家は自分の家と分かっていますかね。

山家小百合 それは分かっています。

川瀬敦士 じゃあ、ショートでは勝手に連れてこられたと、自宅じゃない場所だと分かっていて、自分の同意を得ずに、ショートに連れてこられたっていう思いがあるのですね。

山家小百合 息子さんと折り合いが悪くて、サービスを決める話し合いの中には本人は入ってなかったと思います。それで勝手に連れてこられたとか、担当のケアマネさんに対しても勝手に連れてくるように仕組まれたと思っているようで、ずっと言っています。

川瀬敦士 そういうのはケアマネの渡辺さんに聞いてみたいですね。外堀をうめるじゃないですけど、そういうケースはありますよね?

渡辺美佳子(川瀬・ でも私がそれこそ気になったのがショートステイを利用しなければいけないきっかけというのがなんだったのかなと思います。

山家小百合(SS・介) その辺がちょっと私もその辺の事情がよく分からない。

渡辺美佳子 お分かりにならないとは思いますけど、ケアマネとしてはすごくそこが気になります。

山家小百合 デイサービスのスタッフは火元の確認をしていました。2階には行っていませんが、たぶんそういう類のことが何かあるのだと思います。独居なので夜間一人で家に置いておくのは心配なので定期的にショートを使ってきたのだと思います。認知症はあまりありませんが、競輪が好きで、土曜日とか日曜日になるとお金も自分が持っているので、弥彦の競輪場に行ったことがあるようです。ケアマネさんから捜索したことがあると言っていました。

川瀬敦士(川瀬・リハ) そういう地誌的な見当識も悪くなって、迷子になることがでてきているので心配ですね。

山家小百合 そういうこともあるのできっとショートを定期的に利用するってことになったのかと思います。

川瀬敦士 原島さんにも聞きますが、サ高住に入居されてくる方は、こんなところに連れてこられたという思いはあるのでしょうか?

原島哲志(川瀬・介) 状況が違いますね。ただ言っていることは正しい事だと思います。独居でそんなに認知症がない方ですから。デイからショートに泊まるパターンですよね。

山家小百合 デイからそのままずっとショートに泊まって。徐々に期間が長くなっていることに不満とか不安とかが募って、夜間になると職員のところにいって大声で騒ぎます。

原島哲志 かえるハウスでも、ここはショートじゃなくて入居なので家には帰れない。サ高住なのに本人は何も知らされずここに入ってくる人もいました。今現在ちょうどそういう方がいます。でも耐えるしかないので、時間が解決してくれることなので。やっぱり認知症が微妙ですよね。分かっているところもあるし、忘れきれないところもあって。

山家小百合 ほんとに認知症があるなら傾聴して、ちょっと気をそらすとか。

原島哲志 ただうちに入居した人は一日中そうではないので。ちゃんと笑顔で作業してくれている時間もあります。もうしょうがないですよね。時間が解決するまで待つしかありません。

川瀬敦士 本人としてはまだ時期じゃなかったのかもしれませんね。説明がしっかりできて、本人の同意のもとで入れれば良かったけどね。

渡辺美佳子 もうちょっとご本人の気持ちをくみ取った対応があった方が…。

山家小百合 そうですね。それも尊重してあげるべきだったと思います。男の人ってだいたい嫌がる。泊まってほしいけれども、本当のことを言ってしまうと「行かない」っていうことになるから、家の方はだまってさっさと車に乗せて、行ってしまえば泊まるだけだからというケースはある。「行ってこいて、行ってこいて」と言って、本人は「なんでここにいるのだろう」みたいな。それが夕方になると、帰宅欲求とかにつながっていくのだと思います。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 説明すると絶対に断られるのが分かっているから、家族もそこに労力を使いたくないっていうのはありそうですね。

山家小百合(SS・介) 介護の人がいるし、そこは素人とは違うので任せれば安心。ご家族の方はそう思っています。

川瀬敦士 11時までは悶々としている。その時間になると出てしまう。時間に何かあるのでしょうかね。そうなるゾーンとかね。

原島哲志(川瀬・介) いない人を悪者にしてしまえば?

川瀬敦士 スタッフの対応としてはね、なるほどね。

山家小百合 そういうふうに言わないと落ち着いてもらえない。

川瀬敦士 根本は息子さんとの疎遠になっている寂しさとか。「おれになんで説明してくれないんだ。しっかり説明してくれればわかるのに」と、もしそうした思いがあるとすれば、ちょっとそこの間に入って何かできればいいけどね。

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) 結構男性の場合でも家族の為に自分が我慢しなければならないという気持ちになる方は、我慢してサービスを利用したりします。過去にそんな方がいられました。自分の為じゃなくって、家族の為に、という方もいらっしゃいます。

石川雅子(川瀬・介) おいくつくらいの方ですか?

山家小百合 80歳前半くらいです。家も長男が戻ってくると思って建て替えて、その不満もあるようです。結局戻ってこない。いろいろ積み重なっているものがあるのだと思います。

川瀬敦士 息子さん以外の何か生きがいというか、関係性というか…。認知症の程度とか気になりますね。どのくらいの方なのでしょうか?認知検査でいういわゆる何点くらいの人なのでしょうかね。あとこの方は、お金をとられたって言うこともありますね。これは現金を持ってこられているのですか?

山家小百合 いや現金じゃなくて、そこにおいてあったものがなくなったっていう事だと思います。

川瀬敦士 ショートステイでの出来事ではなくて?

山家小百合 それはまたちょっと別です。具体的なことはわかりませんが。

川瀬敦士 じゃあ誰が盗ったかっていうのも息子さんだって言っているのかどうかも分からないし、「泥棒」って言っているのですか?

山家小百合 息子さんと同居していないので、多分ケアマネさんとか家に上がる誰か。ヘルパーさんとか。

川瀬敦士 お話を聞いてあげても落ち着かず、興奮するのですね。

山家小百合 結局「ケアマネの誰々がこうした、だから明日ケアマネさんを呼んで話しましょう」とかそういう風になだめるじゃないけれど、本人がどうしたいのかっていうのを聞いて。でも帰れないから。「じゃあ明日朝電話して来てもらうことにするね」とか。その後は他の利用者の対応で職員が離れるといなくなります。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 寂しさですよね。だからそういう対応で良かったのではないですか。否定するのではなくてね。

山家小百合(SS・介) とりあえず全てを吐き出してもらわない事にはわからないので。

川瀬敦士 デイでは、納得した上でちゃんと問題なく利用出来て、そこでは被害妄想は出てこないわけですもんね。

山家小百合 デイの方はショートに比べて結構手厚くできると思います。ショートは介護度がすごく幅広いので少し難しいところもあるのではと思います。

川瀬敦士 夜も暗くなって誰もいなくなると寂しくなって出てきているのかもしれませんね。デイはガヤガヤしてお話し相手もいて、スタッフさんも代わる代わる声をかけてくれる中だと、そういうのも出ないのかもしれませんね。なんとなくその方の場合の解決はこういう方法だと思います。それを家族一人で抱えていたらもっと大変なことになっていたと思うので、そういったサービスの利用を含めてやっていければと思います。長谷川さんいかがですか。ここまで聞いていて思う事はありますか?

長谷川義浩(薬局・薬) 実際介護にあたる人の負担が心配だなっていうのがありますね。薬局にも家族の方が薬を取りにこられたりもしますけど、ついでにはけ口じゃないですけどそういう話をちらっと聞いたりすることもありますけど。

川瀬敦士 じゃあ次のケースに行きたいと思います。渡辺さんお願いします。

 

妄想から虐待疑いへ

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) 要介護1の方で女性ですけど、先程から何回も病名が出ているレビー小体型認知症の方です。息子さんと2人暮らしです。これは被害妄想で言っていることですけれども、「通所サービスさんが朝早くて、自分の家では迷惑になるような7:30頃に迎えに来る。お寺様も5時頃に来る」と。ありえないことですけど。息子さんが自分の趣味でやっていたパッチワークの道具をゴミとして捨ててしまったとか。古新聞を出せるように用意していたのに息子が出していないとか。息子はだらしがない。全部息子のせいにしてしまいます。家の中で自分がやらないと息子さんがやらないから通所リハビリを休みたがります。ご自宅にお邪魔してお話を聞くと息子さんは上手に聞き流したりして、漫才親子みたいな感じで、すごく雰囲気も良くってこちらとしてもきちんと冷静に対応することができているなと思い、あまり問題視していませんでした。これから先上手くいきそうな親子だなと思っていましたけれども、その話を御本人の妹さんが聞いて、本気にしたみたいで、慌てて圏域の包括支援センターさんに相談に行ったんですね。そしたら包括の方も分からないから鵜呑みにしたというか、虐待ケースじゃないかみたいな感じでこちらに連絡が来たりとか、自宅に訪問する算段をしたみたいですけども。結局もちろん虐待ケースではなくって、ご病気でそういうことを言っているですが。


メッツ嵐南薬局 薬剤師 長谷川義浩 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) なるほど、ありがとうございます。なんか時間的な見当識障害とかが強いんですか?

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) 時間というか、ちょっと分からないですけれども。

川瀬敦士 なんか補足ありますか。石川さん。

石川雅子(川瀬・介) 鬱っぽい様なところもあって、この方、樫の森に来た時に、この方よりも前からデイケアに来ている先輩方の席がだいたい決まっていて、先に座っていると後から来た人に「そこはおれの席だ、どけ」と言われ、最初の頃は、「私ここに来いって言われて来たのに、席がない」みたいなことになってしまったので、今は毎回来られている時には席札を用意して貼っておいて対応していますので、そういうこともなくなって、落ち着いて楽しんでいる感じです。

川瀬敦士 まあまあご高齢の方ですかね。

渡辺美佳子 まだ妹さんには会ったことがなくって、たぶん御本人のことを心配されていると思うので担当のケアマネの名前と事業所の連絡先をお伝えしましたけど、まだ一度も掛かってきたことないです。

石川雅子 なるほど。

渡辺美佳子 家族関係も複雑で、お子さんが2人いらっしゃいますが2人とも就労していなく、経済的なことをこちらのお母さんに頼っているような感じです。お金のことはデリケートなのではっきり聞けていません。そういったこともあって、御本人の妹さんも心配しているのだと思います。甥っ子と姪っ子にあたる人を、最初からよく思っていないというか、働かないでみたいな、すねかじり状態がずっと続いている。

川瀬敦士 息子さんはずっと働いていない?

渡辺美佳子 それはちょっと家業の自営業の絡みがあったりして、ちょっと理由はあるみたいですけども。背景に複雑なことがあるのだと思います。

川瀬敦士 このエピソードをみると大変そうだなって思いますけど。よくやっておられましたね。息子さんも。

渡辺美佳子 こちらとしてもよくやっているなっていう風に思います。

川瀬敦士 模範的というか。結局妹さんのほうは納得というか包括も入って落ち着かれましたか?

渡辺美佳子 その後はなにもないので。

川瀬敦士 分かりました。まあそういうこともありえるということで。

渡辺美佳子 まさか虐待対応ケースになるとは思わなかったので。

川瀬敦士 そうですね、びっくりですよね。ありがとうございます。じゃあ次行きます。

 

物盗られ妄想の犯人にされたら…

製薬会社 物取られ妄想についてですが、家族ではなくて。スタッフのみなさん御本人が犯人にされた経験はあるのかなと思いまして。

川瀬敦士 いかがでしょうか。

製薬会社 家族から犯人にされた時にどう対応していいかわからないもので、もしそういったご経験がおありだったら教えていただけないかなと。

原島哲志(川瀬・介) しょっちゅうありますね。特定の一人ですけどね。確かに私が一番よく面倒をみている方ですけどね。

製薬会社 お話を聞いていますと基本的には「そうだね、そうだね」ってご対応をされるというような話だったかと思いますが、お金を取られたと言われて「そうだね」ってなかなか言えないですよね。

原島哲志(川瀬・介) だいたい鍋、ザル。私がよく調理をする。その方にお酒のつまみを出してあげたりしている。そういった関係もありますよね。私が鍋を持って行ったとか、フライパンを持って行ったとか、ザルを持って行ったとか。だからだいたい、「そんなことはないですよ」って言って、そのままですね。ほかにその方の体を洗うタオルとか、あれがないこれがないと始まりますけど、だいたいスタッフ23人で行って本人の部屋を探します。必ず出てくるので、「ありましたよ」って言って、そしたら解決ですね。それ以上は言ってこない人なので。

小出 薫(GH・介) うちの施設もしょっちゅうで、職員が本人をここに連れてきて帰さないとか、そういうことを言われることが多くて、特に夜間とか多いですけど、傾聴はしていますけどもだんだん興奮してくるので本人も。なので時と場合によりますけど、そういう時は一旦離れます。離れて部屋に「寝よ」って言って押し込めて時間を置くともう忘れちゃっています。ころっと気分転換して。そういう手もありです。

製薬会社 一旦少し距離をおくことで。

小出 薫 ずっと対応していてもどんどん興奮しちゃって収集がつかないことになっていくので。

原島哲志 たぶん私が言ったレベルで落ち着けば良いですが、例えばそれ以上ひどくなった時は、たぶん私は鍋を実際にそのお部屋に持っていて、「じゃあ返しておくね」と。次の段階はたぶんそれですね、それで様子を見ると思います。

製薬会社 取られたと思っていらっしゃるものを実際にお持ちになって。

原島哲志 そうですね。それで落ち着くかどうかですね。

川瀬敦士(川瀬・リハ) いやいやありがとうございます。山家さんいかがですか。さっきの事例を経験された上だと思いますけど、その他にも何かありましたら。

山家小百合(SS・介) 飲み物を渡した時があって、飲んだら落ち着いて寝たということもありました。距離をおいて無視ではないですけどちょっと離れて見ていることもありました。自分の物だと言うものを一旦は差上げて、後で帰るときにじゃあって。

川瀬敦士 飲み物ね。お茶でも、アルコールでも。

山家小百合 制限がない人に対しては、温かくて甘いものをあげた時に落ち着きましたね。

川瀬敦士 不穏になった人の時もありましたね。甘いものとかで落ち着くってのは。

原島哲志 あとはうちの場合はメンバーが変わらなくて、ほぼ同じメンバーなので、他の入居者の方に対応を頼みます。どうしても我々が対応してしまうと、かどが立ったりするところもあるので仲のいい人に、「ちょっとこういうこと言っているんだけどよろしく」って感じでお願いしたりもします。

川瀬敦士 職員じゃなくて、入居者に?同年代の人とかね。なるほど。

石川雅子(川瀬・介) はい、よくあることなのでそれほど気に留めていませんでしたが、スタッフが大勢いるので、「私に似た何とかさんかもしれないから聞いておくね」とか、「何とかさんは今休憩に入っているから戻ってきたら聞いてみるね」とか、先に延ばすと忘れてくれることが多い。延ばしても「あんたさっき言っていたねっかね」って言う時は、「あ、忘れていた。今聞いてきます」ってその場から離れて、離れたままとか。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 上手ですね。

石川雅子(川瀬・介) やっぱり時間を空けると何か他のことが気がなって、プログラムが始まったりするとそれで収まることもあるので。でも実際、物を無くされたりとか、返し忘れたりとかもあるので、名前が書いてあって、こういうものだってはっきり分かる時は、探して電話を掛けて対応したりだとか。本当に物が無くなるだとか、何かに紛れちゃうような時はその日のうちに取りに行って対応したりします。全く持ってきていない財布がなくなったとかは、「お家にお母さんあるって言っているよ」って、電話は繋がっていませんけど奥さんが言っている様に言ったり、その方が納得できるような答えを用意しますかね。

川瀬敦士 結構出ましたね。演じるっていうの。布施さんどうですか?

布施良友(川瀬・介) ほぼ同じような対応をさせてもらいますけど。だからと言って距離をあけるだけじゃなくって、スタッフからしたら持ってきてないでしょって思ったのに、実際ほんとに持ってきていたケースもあるので、その人の認知力とか状態を見て、お話を聞いた上で対応させてもらいますが、距離をあけた方が良い人にはあけさせてもらいますし、この人の言っていることは本当っぽいなと思ったら、聞いて本当に探せば出てくる場合もあるので。

川瀬敦士 妄想じゃないことだってありえますからね。「あーまただ」ってならないように対応することも大事ですよね。

石川雅子 眼鏡とかね。

川瀬敦士 無くしやすいものとか結構ありますよね。高橋さんどうですかね。

高橋芳雄(川瀬・介) 真面目なスタッフほどずっと一生懸命聞いています。先程もおっしゃっていましたけど、ヒートアップして収集がつかなくなるので、他のスタッフがいるならチェンジすることで目先を変えて、「さっきはどうしました?話を聞きますよ」って言うと「実はね、ちょっと聞いてよ」ってなってくるので。そういう意味ではスタッフのチームワークも大事になってくる かなって思います。


川瀬神経内科クリニック 介護職 高橋芳雄 氏

 

物盗られ妄想

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) この方は一人暮らしの方で、病名はアルツハイマー型認知症の方で要介護1です。カバンとか財布とか通帳とかを金庫代わりにしているショルダーバックがあって、それを不用心だからと言ってしまってしまいますが、しまう場所が毎回違っていて、どこにしまったか忘れてしまいます。この方は毎日ヘルパーさんに入ってもらっていますが、ヘルパーさんや近所の人のせいにして、「留守中に誰かが家に入ったみたいで気持ちが悪いから家に入れない」と言って近所の人に相談に行って、実際に家に泥棒が入ったと言って警察を呼んだこともありました。また毎回、中華鍋やフライ返し、蒸し器がなくなったと気になりすぎて、誰かが持っていったとか、どこにしまったとか。調理が開始できない状況です。今はおにぎりとか菓子パン、揚げ物だとか。昔はほんとに料理が好きな方だったのですけれども、今は料理が出来なくなってしまっています。

川瀬敦士(川瀬・リハ) こういう風に地域を巻き込んでいくとなると大変ですよね。認知症の初期集中支援チームとか、家族じゃない近隣の人から声があがってつながるケースとかもありますけどね。一人暮らしで寂しさがあるかもしれないからね。なにか共同住宅とかいいのかもしれませんね。

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) 実はこの方、その後、県外に住んでいた娘さんとの同居になりました。上手くいくかどうか分からないですけど、安心感につながってもらえればなと思っています。

川瀬敦士 じゃあ続いて次のケースです。

 

娘への被害妄想

布施良友(川瀬・介) 次のケースも女性の方ですが、デイケアに来た時、特に口論とかにはなりませんが、友達と話をしている時に「嫁さんが私のご飯に毒を盛った」何かを探している時は「嫁がどっかにやっている」というのを同席の方々にずっとお話をしているというケースですね。支度が間に合わないとかそういうこともなくて、被害妄想の話をされているケース紹介として上げさせてもらいました。

川瀬敦士 まさに一番近しい人なのかもしれないですよね。不満っていうのは本人の不満ということですか。

布施良友 そうですね、嫁さんに対する不満が出ているのかなと思います。

川瀬敦士 お嫁さんの方から相談を受けたりとかっていうことはないですかね。

布施良友 なかったですね。

川瀬敦士 じゃあ次のケースお願いします。

 

過去のトラウマが原因

坂井美和子(川瀬・看) ヘルパーさんの拒否があります。「勘弁してください」、「もう帰ってください」、「もう結構です」と言って、人が行くのも拒否されていています。どうしてなのか娘さんに話を聞いたら、昔骨折して家から出られなくって、ずっと家にいた際、訪問販売に売りつけられ騙されたことがあったようです。電話がやたらにかかってきて、電話もでなくなったりして、そういうことがあり徐々に認知症状が出てきて、ヘルパー拒否につながっているということでした。どうすれば良いのか今ちょうど悩んでいるところです。これから対応するところです。

川瀬敦士 妄想というか、昔のトラウマがあるから、そこをしっかり聞き取ってちょっとずつ時間をかけてやっていかなくちゃいけないと思います。経験をつんで外部の人への不信感があるわけなので、関係性作りをきちっとやっていかないといけないのですね。来られるのが嫌なら出て行くのが良いのかとか。次のケースです。

 

口紅、本人の配偶者も…

渡辺美佳子 要支援1の女性で、レビー小体型認知症の方です。夫と息子家族と同居していますが、日中は夫と2人になっています。どういう訳だか「夫が私の知らないうちに薬を一服もって私を眠らせるんです」とか「夫が私に口紅を塗るんです」とか言っています。嫌そうな感じで口を拭うんですけど、別に口紅塗っている感じでもなく。夫がいろいろ盗むとか、どうも夫が毎日怒ってばかりいるために落ち込みがあって、このようなことを誰かが来る度に言っているようなケースです。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 今現在もこの状況ですかね。何か良いと思われる対策はありますかね。

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) この方は樫の森利用を開始して、やっと外に出て気分転換が出来るようになってきたら、今度おしっこが出なくなって、管をつけて、膀胱留置カテーテルをずっと装着するようになってしまいました。「こんな袋をつけて樫の森にはもう行けません」と言っています。今は訪問看護が入るようになって、ご主人の話も傾聴してもらおうと考えています。

川瀬敦士 ご主人の方が何か怒ってしまうというのは、ご主人に何かあるのかなって気になりましたけどね。

渡辺美佳子 ご主人ですね。

川瀬敦士 早期の認知症で怒りっぽくなっているということもありえなくもなかったりもしますよね。

渡辺美佳子 そうですね。ご主人もご高齢で80代なんですよ。ちょっと怪しいかなとは思います。包括支援センターの方と一緒に訪問した時もなんとなくご主人が心もとないというか、頼りないというか、いろんなことが苦手になってきているよねっていうのは言っていたので。今後同居のご家族の方にもケアマネとして連絡をとって、お父さんだけに奥様を任せるのではなく、協力してもらう必要があるっていうのは言っています。

川瀬敦士 はい、ありがとうございます。口紅を塗るんですっていうのはすごい独特。どうしてこういう行動に出るのかなっていう。じゃあ続いていきます。

 

文献紹介

川瀬敦士 対応策がいろいろ出てきたので文献を続けて紹介したいと思います。

 

認知症 よい対応・わるい対応 

浦上克哉 日本評論社

“患者さんにとって妄想は確信。言葉による説得は効果がない。否定や訂正せず、訴えを聞き同じ感情を共有する。一緒に探すふりをして「おやつを食べてからもう一度探しましょう。」と関心を別の方向へ向かせる。又は、本人に見つけてもらい喜びを分かちあう。”

 

さっき原島さんが言っていたのは教科書とは真逆だなって思って。スタッフが見つけると「やっぱりお前が盗んだんだ」と、的になってしまうと教科書では言っていますが、そんなことにとらわれなくても良いと思います。そういう風に書いてありました。

 

和光病院式認知症ケア実践ハンドブック 

和光病院看護部

“まずは訴えを肯定する。その上で、「それは○○が預かっていますよ」「探しておきますね」などとさらに安心してもらえるような応答をする。「息子さんが持って帰りましたよ」「今度持ってきてもらいましょう」などとここにはないことを伝える。”

 

認知症の9大法則 50症状と対応策 

杉山孝博 法研

いつも一緒に探してくれている人に対して、なんとなく自分の物忘れを常に知られているように感じ、嫌な印象が強まることがある。時には別の人に探してもらう。「すいません。さっき集金の人が来たので、お母さんの財布から借りて払いました」と謝って、本人が盗まれたと言っている金額を返す演技をする。”

 

新しい認知症ケア 介護編 

三好春樹 講談社

“妄想は関係を逆転しようとする試み。今まで母親であり上の立場であったが、子供たちにこんなに自分の世話をかけてしまう。親身になっている人に感謝するからこそ、悪者にしたくなることでそういう妄想が出てきてしまう。だから人間関係のバランスを見直して、例えばお年寄りから何かを習うとか、先生になってもらうことで安心感を得てもらって被害妄想を減らそうという。”

 

認知症 知って安心!症状別対応ガイド 

数井裕光 メディカルレビュー社

“「少し年をとって、弱ってこられたところもあるけれど、まだまだ家族はあなたのことを頼りにしているし、大切に思っていますよ」というメッセージを送り続ける。お味噌汁の味付け、仏壇の祀り方など本人の得意としていたことに力を発揮してもらい、その方なりの役割を果たせているという自信をもっていただく。”

 

感想

川瀬敦士(川瀬・リハ) 最後にみなさんから一言ずつ感想を頂いて終わりにしたいと思います。

山家小百合(SS・介) 今日はありがとうございました。会社でも数か月に1回、事例を上げて取り組んでいるのですけれど、今日はいろんな話を聞けたので、出席してよかったと思いました。ありがとうございました。

高橋芳雄(川瀬・介) 今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。私は介護の仕事なので介護として出来ることはなんだろうなと考えました。ご本人はもちろんご家族も苦しんでいられるでしょうし、ケースによっては家族の方が負い目を感じたりしているケースも往々にしてあると思うので、その辺の方にもケアというか目を向けられる介護でありたいなと思います。また被害妄想そのものについても、プラスに考えるとこの人が何にこだわっているかを自分で言ってくれているという風に考えると、きっかけも御本人があたえてくれているわけですから、プラスに考えて問題解決についてその辺もやっていけたらいいなと思います。今日はありがとうございました。

原島哲志(川瀬・介) 今日は楽しい時間をありがとうございました。また、かえるハウスでも今後さまざまな被害妄想があるかと思いますので、そういったことが個人的には嫌いではないので、広い心で受け止めながらこれからも励んでいきたいと思います。今日はありがとうございました。

坂井美和子(川瀬・介) 関係作りが大切だということで、初期集中支援チームのヒントを頂いたような気がします。その方の生活背景とか家族関係とかを知ることも大切なのかなと思いました。今日はありがとうございました。

渡辺美佳子(川瀬・ⅭⅯ) 今日はありがとうございました。妄想っていうのも、関係を逆転しようとする試みという言葉があって、そういう風に考えたことがなかったので、それがきっかけでその方の不安を取り除けたりとか、家族関係をもう一度ケアマネの立場でも聞き取ったりとか、その方の今まで歩んできた部分をきちんと話の中で聞き取れて対応することができるようになればいいなと改めて感じました。またこういう機会があれば参加したいなと思いますので宜しくお願い致します。ありがとうございました。

小出 薫(GH・介) 今日初めて参加させて頂きましたけれども、多職種の方の意見が聞けてすごく勉強になりました。私グループホームにいるのでみんな認知症の方なので、テーマを決めて毎回やっているようなのでまたいい機会があったら参加したいと思います。お願いします。

大野裕子(訪看・看) 今日はありがとうございました。みなさんの被害妄想がある時の対応策ということで介護の方がいろいろとあの手この手を教えて頂いて、そうだなそうだなということを思いました。私は訪問看護で行っているので看護師さんが家に来たよと言って、私たちが被害にあうようなことはないんですけれども、家族自身はそういう問題を抱えていたりすることもあるので、介護さんがやっていた対応策とかを家族の方に教えて、試してみてはどうかと提案していきたいなと思いました。とても勉強になったのでまた次回、機会があれば参加させていただきたいと思いました。ありがとうございました。

長谷川義浩(薬局・薬) 今日はありがとうございました。いろいろな事例を聞けてためになりました。薬局にいらっしゃる方は「薬がいくつか余っています」とおっしゃられる方も多くて、薬をちゃんと飲めるようになって良くなったねという事例も聞けましたので飲み忘れがある方、なんで飲めてないのかなとか、生活の様子とかもうちょっとこだわって薬剤師からもアプローチしていけるようになりたいなと思いました。ありがとうございました。

加藤智世(薬局・薬) ありがとうございました。私が個人宅で訪問している方、最近物がない物がないとよく探している姿があって、いつこういった被害妄想に繋がるかわからないなと、みなさんのいろんな経験をふまえて、いろんな解決策・手段を得ることが出来ました。長谷川さんもおっしゃったのですが、窓口で薬を飲んで改善している事例も聞けたので、服薬サポート、窓口業務でも今後も精進していきたいと思いました。ありがとうございました。

石川雅子(川瀬・介) 犯人にされたらどうしようというのには慣れてしまっていて、あまり意識しなかったのですけれども、ご家族にしてみて、ご本人もご家族も認知症だよって言われてからの受け止め方がまだ日が浅い方とかだと、とにかく戸惑う。真面目にしようと思えばしようと思うほど落ち込んでしまうことが多いと思うので、最初の契約とかお話だとなかなか時間がなくてお話出来ないけれども、流していいところとしっかり受け止めるところと、難しいのだけれどもご家族が考えていることにお話しが一緒にできるような介護でいたいなと今日は思いました。ありがとうございました。

布施良友(川瀬・介) 普段の業務の中で、この時どうしたらいいんだろうなとか、この対応でよかったのかなと思う時があるのですが、こういった機会でいろいろな方のお話を聞かせてもらったりとか、事例を聞かせてもらったりとか、いろんな職種のお話を聞かせてもらうのもすごく勉強になりましたし、すごく楽しかったです。また参加させてもらいたいと思いますのでよろしくお願いします。ありがとうございました。

山寺忠之(薬局・薬) 我々が関わっていた方が穏やかに暮らされているというのを聞いて安心しました。なかなか被害妄想は薬局の窓口とかでは家族からのお話とかはあるんですけど直接我々が出来ることというのは少ないなとは感じてはいました。服薬の管理は意外に解決策にも根本的なところにもなっている可能性があるなと感じました。これからまた通常の業務をしっかりやることも大事かなと思います。以上です。

川瀬敦士(川瀬・リハ) ありがとうございました。今まで昼夜逆転とか不穏とか暴力とかありましたが、今までのテーマに比べると11つのケースに、答えが出せずに苦労しているというケースではなく、なんとか対応できているような感じで事が進んでいるような印象があります。もしかするとこれは、介護施設ではなく、家族の方、自宅で接している方が切実な問題として抱えていることだと思いました。次回、同じテーマでやる時にはぜひ「家族の会」の方にも来ていただきたいなと思いました。また被害妄想の元となるものが不安感や疎外感、役割の喪失感。これは認知症の症状の全ての原因になっているところだと思います。なので他のBPSDの症状でもこういう視点は必要だろうと思うし、我々関わりの中でうまく処理出来るということが分かったので、非薬物でも改善できる部分があるっていうのも一つ見えたところだと思います。被害妄想に関しては、使うサービスや関わる人、声かけの仕方によっては変わってくるというところに気づけたのでそれも十分意義があったのかと思いました。以上です。

川瀬裕士(川瀬・医師) お疲れ様でした。また今回もいろんな具体的な対応策、非薬物療法としてのテクニックというのを紹介していただいて、それがまたホームページ上にあがっていくので、それを見た人が私もこれやってみようかなと思い、それが上手くいけばこの会をやった目的が一つ達成されたのかなと思います。施設の中で被害妄想があった場合には、だいたい施設の人もそれですごく困るって、最近はあまり言わなくなってきているかもしれない。みんなが上手に対応している。でも家族にとっては唯一の初めてのケースになる。妄想は本人にとっては真実だし必ず原因がある。ものがなくなった時の説明もよくしますが自分のものがなくなった時、我々も経験があるけど、鍵がないとか、家族を疑ってイライラしていたけど、結局自分のところから出てきて、ごめんなさいっていうことがよくあるわけで。それが常日頃になってくると、誰かが盗ったって思うことは当然のことかもしれない。だから悪気があってやっていることじゃなくって、何か不安があるからで、病気のせいでそうなっているっていうことは家族には伝えるけど、そこで家族に頑張れとは言わない、言えないよね。そこで薬を使う。レビー小体型認知症だったらコリンエステラーゼ阻害薬を使ってみるけれども。その人にとっての最適な量を探っていくのに少し時間がかかるのかもしれないと説明するけど、なかなか家族にもそこまでの余裕がないから一刻も早く治してくれないともう限界だという感じの時もある。医者としてはなるべく早くその症状をとってあげること、いっぱいいっぱいになっているご家族にどの薬をどのくらいの期間で出すか、一番リスクを少なくもっとも早く効果の出る薬はなんだろうって考えて薬を出す。ガイドライン上は非薬物療法を十分に試みて、それでもなお困った場合に薬を使いなさいっていうことになっていますが家族の場合は必ずしもそうではない部分もあるのかなって思いました。非常に勉強になりました。ありがとうございました。

川瀬敦士(川瀬・リハ) ではこれで第9回認魂を終わりにしたいと思います。次回11月を予定しております。ありがとうございました。